レーズンロールでお帰りなさい

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レーズンロールでお帰りなさい

「来週には到着するみたいですよ」 「2年ぶりか。楽しみだな」 失恋に沈むクスクスがどんよりした気分でいる中、王妃と国王が珍しくはしゃいだ様子で話していた。 「なんの話?」 通りかかったクスクスが何の気なしに尋ねる。 「おやクスクスちょうどいいところに。 来週、パスタが帰ってくるのですよ」 「兄上が!!」 パスタとは2年前から勉強のために他国に修行に行っていたクスクスの兄である。つまりブール王国の第一王子だ。 クスクスは兄のことが大好きだった。 「修行明けのお祝いですから、盛大な宴を開きましょう」 「そうだクスクス、パンを作ってあげてはどうかな?きっと喜ぶ」 国王がそう言うとクスクスはパァと顔を明るくする。 「うん!」 クスクスは頭を巡らせる。 パスタはブドウが好物だ。きっとアンナに聞けばぴったりのパンを教えてくれるだろう。 そして、今回は、自分ひとりで作ってみたいなと思った。 クスクスはアンナに相談しに行く。 「あら、よろしいじゃありませんか」 アンナはあっさりとそう言った。 「出来るかな、僕にひとりで」 アンナは初めて会った時のように微笑んでクスクスをじっと見つめる。 「大丈夫、殿下はどんどん作るのが上手になってます」 「そうか…!」 「それで、ブドウがお好きとおっしゃいました?」 「そうなんだ!そんなパンはあるかい?」 「もちろんですよ! 干ブドウを使うレーズンロールなどはどうですか?シンプルで美味しいですよ」 「兄上は素朴なものが好きだからそれがいい」 「では、私は今回はレシピの伝授とアドバイスだけということで」 アンナはクスクスの鼻をつついた。 一週間後、めんだいの前にクスクスが立つ。アンナは一歩下がって見守っていた。 まず予め干ブドウをスイーツに合うスパイスと混ぜておいてから、作業に入る。 レーズンロールの配合はオーソドックスだ。 強力粉、そこそこの砂糖にちょっとの塩、酵母菌、卵に牛乳と水。 それらをよく捏ねる、叩く。 叩いて表面にツヤが出てきたらバターをいれる。 一度ぐちゃぐちゃにほぐれるが、捏ねているとすぐにまとまってきた。 クスクスは力がついてきたのか、捏ねる作業もあまり疲れなくなっていた。 「今回は干ブドウを入れるのでいつもよりはしっかり叩かなくても平気ですよ」 アンナのアドバイス通り少し手前で止める。 そして生地を平たく伸ばし、真ん中に先ほどスパイスと混ぜておいた干ブドウを散らし、折る。 何度も何度も、きちんとムラなく混ざるまで折る。 そして1時間きっちり寝かせるのだ。 この時間を利用して片付けやアンナの手伝いをする。 このパン作りに必要な長い時間も随分慣れてきた。
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