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お喋り牛のヤムヤの長話を聞いてなんとか牛乳をもらい、体長50センチはあろう黄金鶏のその卵をとる。
「卵も大きいから2こで十分ね」
「贅沢ってどのへんが贅沢なんだ?」
お店に帰り、広げた材料を眺めながらクスクスが尋ねた。
「リッチなブリオッシュ生地でクリームを包むんですよ」
「ブリオッシュ生地?」
異国の言葉だろうか、クスクスはその存在すら知らない。
「それじゃあ今から一緒に作りましょう」
アンナはエプロンを着けて腕まくりをしてそう言った。
パンになくてはならない強力粉、
お砂糖をたくさん、
ちょこっとのお塩、
「そして光るきのこの粉で作った天然酵母」
アンナは箱には入った白い塊をクスクスに見せる。
それは良い香りとも臭いとも言えない独特の匂いがした。
「森の動くきのこの粉をぬるま湯と混ぜて温かいところに置いておくとイーストに限りなく近い酵母菌になるのよ」
「こうぼ?いーすと?」
「ふふふ、パンをパンたらしめる魔法なんですよ」
そして、たっぷりの卵と牛乳。
それらをキッカリ計量する。
「卵と牛乳がたっぷりだ!これは贅沢!」
「ふふふ、まだまだですよ」
それらの材料をよくねるこねる。
まとまったら今度はめんだいに叩きつける作業だ。
生地は叩けば叩くほどグルテンができる。手捏ねなら遠慮する必要はない。
「ふぅ、でもやっぱり手でやると疲れるわ」
表面にツヤがでるほどまとまったら今度は二度目の贅沢の出番。
「こ、こんなにバターを?!」
それは粉の半分量ほどもある大量のバター。
それを先ほどまとめた生地によく練り込む。
ぬるぬるのバターを生地の上でぐちゃぐちゃにすると、グルテンの隙間にバターが入り込むのだ。
そのうち再びまとまって、伸展性のある柔らかい生地になる。
「そしてこれを再び叩く」
まとまってからはクスクスも手伝いながら何度も何度も叩きつけた。
すると、いつの間にかツヤツヤぷるんとした赤ちゃんのほっぺみたいな生地が出来上がっていた。
「卵で真っ黄色でぴよこみたいだ」
「これを1時間寝かします」
ボウルに入れて、上に濡れた布をかけながらアンナは言う。
「1時間も?待ってられないよ」
「いえいえ、これからまだまだ仕事がありますよ!休んでる暇はありません」
再び卵の出番だ。アンナは器用に卵黄だけを取り出す。
「殿下、お砂糖とこちらをよーく混ぜておいてくださいな」
クスクスは一生懸命、卵黄と砂糖を手が痛くなるまで混ぜた。混ぜたところで、今度は粉が加えられる。
「お願いしますね」
アンナがにっこり微笑むので、クスクスは手がくたくたになるほど混ぜた。
「ふう、これはなんになるの?」
へとへとの手をパタパタふりながら尋ねる。
アンナは予め温めておいた牛乳の一部を卵黄たちと軽く混ぜてから、牛乳のは入った鍋にこして入れる。
「これはカスタードクリームですよ」
そう答えた。
熱くて危険なのでクスクスは少し離れた場所から眺める。
最初は白っぽくてとろとろだった液体が、ぐつぐつ煮えてくると黄色いどろどろになってきた。
その間、アンナは休むことなくヘラで鍋をかき混ぜる。
どろどろだったそれは、出来上がる頃にはやっぱり綺麗なツヤツヤになっていた。
仕上げに甘い香りの乾燥させたバリラの花を混ぜ混むと、ボウルに入れて急いで氷で冷やす。
「よし、カスタードはこれで完成!」
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