王子さまの贅沢クリームパン

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「わあ!大きくなってる!」 1時間後の生地の姿を見てクスクスは目を丸くした。 あのぴよこ色の生地が倍近くふっくらまんまるに膨れ上がっていたのだ。 「これが酵母の魔法です、触ってみますか?」 クスクスがつんつんとそれをつつくと指の形にしずみこんだ。 アンナはその生地を小さい手のひらサイズに分割して丸める。 「ふふふ、可愛いね」 黄色い丸が並ぶ姿はなんだか可愛い。 「もうできる?」 「まだまだです、さらに20分」 アンナは冷凍室にその生地をしまう。 「この時間は?」 「お片付けです」 ー20分後 ほんの少し凍った生地をめんぼうで伸ばしてだえんに、そしてそこにクリームをたっぷり絞る。 「贅沢ですから多めにいきましょう」 アンナは大胆にクリームを絞る最中、クスクスはこっそりクリームを指につけてぺろりとなめる。 口当たりのよいクリームだ。黄金鶏の卵が深いコクを作り出し、バリラのあまーい香りが鼻にぬけた。 たくさんのお菓子を食べてきたクスクスも舌を唸らせる逸品だ。 アンナは美しいと言えるほどの手際の良さで生地を折り畳みクリームを閉じ込める。 クスクスもひとつやらせてもらったが、クリームがベトベトとはみ出してしまった。 最後に、3ヶ所切れ込みをいれた。 「もうかい?もうかい?」 「あともう1時間!」 「なんだって!」 パンとはなんて時間のかかる食べ物なんだろう。クスクスは待ちくたびれて焦らされて、他のお菓子を食べたくなってしまう。 でも、我満がまんと自分を律した。 鉄板に並べられたクリームパンになるものたちをじぃっと眺めていると、いつの間にかふくふくと膨れて、赤ちゃん手のようにむちむちになっていた。 「もう?もう?」 「最後のひといき!」 アンナはその赤ちゃんの手にハケで溶いた卵を塗ると、熱々の窯に入れた。 「10分くらいかな」 「もうすぐだ!」 待ちきれなくてクスクスは熱いのを我慢して窯の前で待っていると、なんとも香ばしい匂いが漂ってきた。 そしてついに、 「熱いから気を付けて!」 アンナがトンっと勢いをつけながら鉄板を窯から出した。 そこに並ぶのはキツネ色にツヤツヤ輝くクリームパン。 クスクスの作ったやつはどろりとクリームが流れ出てしまっていた。 「粗熱を取る間お茶を淹れましょう」 クスクスは食べるのが楽しみで、急いでポットを用意する。 薄い緑色のテーブルクロスに、ハーブティーと白いお皿、ほんのり温かいクリームパンが並ぶ。 待ちに待った瞬間だ。 「では、」 「「いただきます」」 クスクスははむりとかぶりついた。 すると、生地がふわりと口のなかに飛び込む。 芳醇なバターの香り、砂糖の甘み、卵と牛乳の旨み、小麦粉の香ばしさ…これかまアンナの言っていた酵母の魔法… そして中から溢れるのはこれまた黄金色のカスタードクリーム。 温かいとまたさらに濃厚だ。 クスクスは目をつぶり、とろけあう二つの贅沢を心から味わった。 「この国の牛乳と卵はうんと味が良いわ…」 アンナのそんな独り言さえ届かないほど、クスクスは優雅に真剣にクリームパンを食べる。 それでもあっという間になくなってしまった。 「どうでした殿下」 余韻に浸りながらハーブティーを啜るクスクスにアンナは尋ねた。 「とっっっても素晴らしかった!」 「よかったです」 アンナはクスクスの笑顔に応えるように笑った。 「また来るねアンナ!」 お土産のクリームパンを抱えて城に帰る。 クスクスにとって、こんなに美味しい一日は久しぶりだった。
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