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アンナに手伝ってもらいながらも、なんとか捏ねあげてボウルに入れる。
「こっからまた1時間かい?」
「その通り!」
お店の宣伝のチラシを書くのを手伝いながら、クスクスはキルシュのことを話し始めた。
「とっても明るくて楽しくて可愛いんだ!食べることが好きだから、きっとパンを気に入ってくれる。
僕、キルシュが大好きなんだ。だから7歳のときキルシュにプロポーズしたんだけど、キルシュ、覚えているかなあ…」
素直なアンナは肩をくすめる。
「6年も前の話ですものね」
「ほら、女の人って年上が好きって言うだろう?僕は3歳も年下だから…」
「そうですねえ。大人になれば誤差ですけど、キルシュ様の年齢だと確かに年上がお好きかも」
クスクスはぷっと口を膨らます。
「嘘でも励ますようなこと言ってよ!」
「率直な意見ですもの。それに殿下、そうした忖度をするとそれはそれで怒るじゃありませんか」
そう言われると図星をつかれたのか、クスクスはさらに気に食わなそうに口を尖らせる。
「ふふふ、殿下はとても可愛いですからキルシュ様でもそうでなくても、きっと素敵な女性と結ばれますよ」
「僕は可愛いじゃなくてカッコいいんだ!」
クスクスは顔を赤くしてそう怒りながらも、内心まんざらでもなさそうだった。
そうこうしていると1時間が立つ。
「今日はひとつ…そうね、30gくらいで切ろうかしら」
アンナは頭の上で何かを計算してから生地の分割を始める。
「発酵はあんなにのんびりなのに、どうしていつもそんなに慌てて作るんだい?」
「パン生地というのはどんどん発酵してきてしまうんです。のんびりしてたらタイムオーバーになっちゃう!」
アンナは手を止めることなくそう言って分割を終わらせると、今度は大急ぎで丸める作業を始めた。
それはクスクスも手伝う。
片付けをしていたらあっという間に成形の時間がやってきた。
「最初にまずのします」
アンナは丸い生地を手のひらで転がして少しだけ棒状にする。
クスクスも一緒になって全ての生地を棒状にした。
「最初にのしたやつからこうやって、細長く伸ばすんですよ」
アンナがきゅっきゅとめんだいの上で生地を転がすと、あれよあれよと長く伸びていく。
クスクスも真似したが、見ていたよりもずっと難しくてボコボコしたりちぎれてしまった。
「力任せはだめですよ、自然に自然に」
アンナの手はまるで魔法のようだ。
全ての生地を綺麗なロープのようにすると、今度は3本持ってくる。
「真ん中から、右左、右左」
生地の真ん中から三つ編みを始めて、一度閉じたらくるんとひっくり返してまた三つ編みをする。
「こうすることで綺麗な三つ編みができるんです」
「本当だ!キルシュの三つ編みみたいに綺麗だ」
「半分はクスの実をくっつけましょうか」
成形した生地を布巾で濡らしてペトリとクスの実をつける。
クスの実はとても細かい木の実で、焼くとぷちぷち香ばしくなる。
あとは発酵を待つだけだ。
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