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由紀也は、目が覚めて、自分の腕の中で丸くなっている優月を見て、ぎょっとした。
優月は由紀也に体をくっつけるようにして眠っている。
あまりの無防備さに、苦笑する。
優月は薄いネグリジェ一枚しか着ていない。顔はまだ少女のようにも見えるが、体はもう大人の女性のものだ。
清らかな首筋には匂い立つ色香がある。
優月が由紀也に対して少しも警戒を抱いてないことに、嬉しいような残念なような複雑な感情を抱く。
由紀也は優月の頬を指の背で撫でた。
(優月……、つらい目に遭ったね……、可哀そうに…………)
7歳のときの優月はふわふわと綿菓子のように可愛かった。妹と継母に責められるも、二人をしっかりと見返していた。目に涙を一杯浮かべながらも、立ち向かおうとしている姿がいじらしかった。
妹と継母に注意をすれば、優月は由紀也にくっついて離れないほどに懐いてきた。「お嫁さんにして」と言ってきた少女の戯言には、「いいよ」と言ってあげた。
14歳のときには、可憐な頬に恥じらいを浮かべて、由紀也へ憧れのこもる目を向けてきた。「由紀兄さんのお嫁さんにはなれないの」と言ってきたときは、その約束を優月が覚えていることに驚き、振られてしまったことに寂しさを感じたが、きちんと断る誠実さを持つ少女を愛おしく感じた。
そんな優月は、凜とした美しい女性に育っていた。
エレベーターの中、襲われた直後なのに、乱れた髪を慎ましく整えながら、毅然として背中を伸ばしていた。それを由紀也は不謹慎ながら美しく感じ、目を奪われてしまった。
優月だとは気づかずに見惚れてしまったが、その女性が自分の名前を呼んで、由紀也であることを認識すると、糸が切れたように涙を流し始めた。
彼女は、泣きたいのをこらえて、必死で品位を保っていたのだ。そのことがわかると、そこに、しびれるほどの敬意を覚えた。気位の高い女性なのだ。そして、そんな気位の高い女性が涙を見せられるほど気を許した相手が自分であることに、言いようもない喜びを感じた。
(優月を守らねば)
由紀也は強くそれを思った。
優月の境遇を薄々知りながらも、市太郎に遠ざけられるまま放置してしまったことへの罪悪感もあった。
(あの可愛かった優月が大人になって襲われるような目に遭っているなんて)
「ゆき、にいさん………」
優月はうっすらと目を開けると由紀也を見るなり、ほっと安心するようにほほ笑んだ。
そして、由紀也の胸に頬を擦り付けてきた。
由紀也に甘やかな情欲が湧き起こる。
由紀也は優月を一人の女性として愛する予感があった。
優月を優しく抱きしめる。
「優月、おはよう」
優月は恥じらうように頬を染めて、上目遣いに見た。
「由紀兄さん……、おはよう」
「俺は怖くない?」
「えっ」
「昨日、あんなことがあったのに、俺は怖くない?」
「由紀兄さんのそばは安心する。いやじゃなければ、そばにいさせて」
優月は小さい子が年長者に甘えるような顔つきをしている。
(優月は俺と血がつながってないのを知らないんだな)
由紀也と優月の母親は連れ子同士だった。よって、由紀也と優月の間にも血縁関係はない。
しかし、優月はおそらくそのことを知らないのだ。
(だから、ネグリジェ一枚で俺のベッドで平気でいられるんだ。俺が「そういう」目で優月を見ることができることも知らずに。でも、それを告げるのはまだ先にしよう。俺はまだ安心できるだけの存在でいよう。昨日、あんなことがあったばかりなのだから)
「わかった。気が済むまでそばにいるといい。ここで一緒に寝てもいいんだよ」
由紀也はただ安心できる存在として、優月のそばにいることにした。
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