409人が本棚に入れています
本棚に追加
(た、たすかったわ………)
降下するエレベーターの中で、優月は安堵の息を漏らした。幸い乱れたのは髪だけで衣服に乱れはない。髪を手で整える。
そんな優月に、男性が訊いてきた。優月を怖がらせないためか、優月から距離を取っている。
「大丈夫ですか? 警察を呼びましょうか。救護室までお連れしましょうか、それとも、女性スタッフでもお呼びしましょうか」
優月はそれらの問いに首を横に振った。怪我もないし、警察沙汰にするつもりもなかった。
聞き覚えのある声に、優月は顔を上げて男性の顔を見た。
(えっ……)
随分と会っていないが、優月にはわかる。由紀也だ。
「ゆ、由紀兄さん………?」
「えっ……?」
「わ、わたし、優月です」
「優月……?」
由紀也は驚いた顔で見つめていたが、目に親愛を浮かべた。
「優月………、大きくなった。見違えた」
優月は、張り詰めていた気持ちが緩んだ。
両目から涙があふれてきた。
「由紀兄さん……、わたし、怖かったわ………。由紀兄さんがいなければ……」
由紀也は優月を慰めるように寄り添ってきた。
「優月……、怖かったね、もう大丈夫だ、大丈夫だよ」
(こんなところで由紀兄さんと会えるなんて……)
ここのところ、由紀也を思い出すが多かったために、それが引き寄せたとしか思えなかった。
(由紀兄さん、会いたかった………!)
不意に無自覚のうちに溜め込んでいた思いがこみ上げる。
優月は由紀也にずっと会いたくてたまらなかったのだ。
泣く優月を由紀也はそっと抱きしめてきた。
最初のコメントを投稿しよう!