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屋敷に戻れば、気を落ち着かせて、市太郎の書斎に向かった。
ドアの前で足が竦む。
もう優月にとって市太郎は恐ろしい存在になっていた。
(パパが怖いわ……。でも、破談にしてもらわなきゃ)
中に入ると、市太郎は、優月に険しい顔を向けてきた。
「隆司くんと仲直りできたのか」
「隆司さんに襲われかけました」
「そうか」
市太郎はそう言ったきり、チェアをくるりと返して、優月に背中を向けた。
その反応に優月は失望した。
「私、強引にベッドに押し倒されたんです。破談にしてください」
「婚約者同士ならそういうこともあるだろう。どうせ、また、お前は、くだらんことで腹を立ててるのだろう。パパは、つくづく呆れてしまうよ………」
「でも、パパ、隆司さんは無理に私を」
そこで、優月は口を閉じた。市太郎がゆらりと立ち上がったからだ。
市太郎は体を揺らしながら優月に近づいてきた。
「甘えるな! お前はいつも大げさだ!」
そんな怒鳴り声があったかと思えば、優月は絨毯に倒れ込んでいた。
ぐわんぐわんと優月の頭の中で大きな音が鳴っている。
ショックにおくれて痛みがやってきた。頬がひどく熱い。
(パパはぶったの………?)
呆然と絨毯に転がったまま、なかなか起き上がれなかった。
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