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優月は自室のベッドに伏せた。
はらわたが煮えくり返ってしようがなかった。
麗奈はいつも優月のものを勝手に取っていく。
文房具でも化粧品でも、とっておきの新品をいつも麗奈に奪われた。使った後に悪びれずに返してくるが、新品だった消しゴムやリップの先が崩れて返ってきても、腹が立つだけだった。
ときに優月がひどく怒れば、麗奈は傷ついた顔を「周囲 」に向ける。
「ひ、ひどいわ、優月……。ちょっと、借りただけでしょう、すぐに返したわ……? なのにそんなに怒るの……?」
そうなれば「周囲」からは優月が妹に冷たいと見えて、優月が悪者になってしまう。
そして、美智子は一見、優月にも良い母親に見えるが、ここぞというときに嫌がらせをする。「うっかり」パスポートを切らしていることに気づかず修学旅行に行けないこともあったし、「うっかり」入学金を払ってもらえず志望大学にも行けずに短大になった。
優月は、幼いころから美智子の自分への態度に違和感を覚えていたが、10才のとき、自分が継子であることを知り、大いに納得した。優月の母親は優月を産んでまもなく亡くなり、その後、美智子と麗奈が高遠家に入ってきたのだ。
半年ばかり年下の麗奈が、父の実子だとわかったときには、父親に対して失望したが、しかし、家の中で唯一、信頼できる相手である父親を嫌うことなどできなかった。
優月にとってこの家はひどく居心地が悪かった。
優月なりに美智子と麗奈と良い関係を築こうと頑張っていた時期もあったが、もうとっくに諦めている。
結婚すればこの家を出られる、と、父親の持ってきた話に飛びついたが、結婚に浮かれてたのが嘘のようだ。
ベッドに伏せている優月に、ノックが聞こえてきた。
「優月ちゃん、入ってもいいかな?」
隆司だった。
さっきのことですっかり隆司から気持ちが離れていた。
(もうこの人とは結婚したくない)
呆れるほど冷めていた。
引っ込み思案な優月をいつもリードしてくれる隆司にほのかな憧れを抱いていたが、それは霧散していた。爽やかな外見にも惹かれていたが、もう格好良いとも思わない。
「入らないでください」
「入るね」
隆司は優月の制止にもかかわらずドアノブを回して入ろうとした。その強引さはこれまでなら頼りになると感じたかもしれなかったが、今では不愉快なだけだ。
(鍵をかけててよかった)
隆司はしばらくガチャガチャとドアノブを回していた。
「優月ちゃんがあのドレスを着たところ、見てみたいな。きっと似合うと思う」
そう言われたところで今更だ。
「麗奈ちゃんだって、悪気があってやったわけじゃないし、優月ちゃんのほうが似合うって遠慮してたよ」
(ああ、この人にはそう映ったのね)
隆司にも麗奈は天真爛漫にしか見えないのだろう。
麗奈に悪気があったのは見え見えだし、遠慮するならそもそもドレスを着たりはしない。
「機嫌直して出て来てほしいな」
(機嫌が悪くなったわけじゃないの、もう嫌気がさしてるの)
優月はイヤホンを耳に入れた。もう声も聞きたくない。
(パパに、破談にするようにすぐに頼まないと)
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