【完結】私のものを欲しがる異母妹には、大事なものは触らせません

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 それから、屋敷内で、美智子と麗奈と顔を合わせないように過ごした。隆司からは何度も連絡があったが、無視している。  翌々日に、父親が家に帰ってきた。父親が帰ったとなれば、夕食はみなで一緒に摂らなければならない。  父が席に着くのを待っている間、美智子は冷淡な顔を向けてきた。 「優月、隆司さんに返信を送っていないそうね。返事をしないのは無礼ですよ」  優月は返事をしなかった。  もう美智子にも麗奈にも体裁を繕う気は起きなかった。  麗奈は相変わらず悪びれのない顔を向けてきた。 「優月ったら、まだ怒ってる? やだ、むすっとしてるとモアイ像、そっくり。小学生のときに、モアイ像って呼ばれてたわよね。優月ったら、響きが気に入って喜んでたけど、画像を見て怒り出したのよねえ」  そう呼んだのは麗奈自身で、そう呼ぶのはやめて、と優月は何度も言ったのに、麗奈と麗奈の取り巻きからはずっとモアイ像と呼ばれて続けた。  麗奈には悪意があるに違いないが、それでも、周囲からすれば、ただ天真爛漫に見えているらしい、特に男性には。 (違うのは、由紀兄さんだけだったわ)  由紀也は優月の母方の叔父である。母の末の弟で、優月より十歳年上なだけだ。  優月が七歳のとき、高遠の屋敷を訪れていた由起也は、美智子に優月が怒られているところに口を出してきた。いつものように麗奈が優月のものを勝手に使い、優月が怒れば、何故か美智子に優月が怒られるという、よくある出来事の最中だった。  由紀也は、優月のものを取った麗奈が悪い、なのに、悪くはない優月を謝らせようとするのは、美智子がおかしい、と断言した。美智子が何か言い返すも、由紀也は静かに美智子を諭し、美智子は最後には黙り込み、麗奈は初めて優月に謝った。  それから由紀也の滞在中、優月は、ずっと、由紀也に付きまとった。由紀也のそばは優月にとって安心できる場所だった。「由紀兄さんのお嫁さんにして」と頼めば、由紀也は「うん、いいよ」と答えてくれた。大きくなったら由紀也と結婚してこの家を出ることが、優月の支えとなった。  しかし、そのうち、叔父とは結婚できないとわかり落胆した。14歳でまた由紀也が訪問してきたときに、「由紀兄さんのお嫁さんにはなれないの」と言えば、由紀也は目をぱちくりさせて、それから優しい目で、「優月は俺の大事な姪であることに違いはないから」と笑ってくれた。それ以来、由紀也とは会っていないが、今でも、優月の由紀也への信頼は絶対だ。 (由紀兄さんなら、ドレスを着ようとする麗奈を止めてくれたし、私のために腹も立ててくれたはずだわ)
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