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「…どうしてそこまで……」
「あのねぇ、私ジュエリーデザイナーよ?目の前に原石が落ちてたら磨いてカットして芸術に昇華したいと思うのがサガなの。
ああっ、もうほら出血大サービス!」
薫は本棚まで走るとドンドンドンと三冊のぶ厚い年季の入った本を抱えて芹に渡した。
あまりの重量感によろめく。
「これが基礎の基礎よ!これで勉強なさい!」
芹の胸が熱く踊る。期待が膨らむ。
宝石のように目を輝かせる芹と見つめ合うと、薫はニヤリと笑った。
「その代わり私の部下になったらもうこんな甘くしないわよ!ビシバシいくわ!」
「それはもう体験済みですわ」
モデルになりたての頃、撮影の度にポーズや表情について厳しく指導されたものである。
「ふふ、そうだったわね」
薫はアハハハハと高笑いをした。思わず芹もつられる。
が、薫は急にピタリと笑うのをやめると首を傾げながら芹の顔を見た。
「…で、アンタなんか用があって来たんだっけ?」
当初の目的をすっかり忘れていた。芹は「あっ」と声をあげながら、芹の将来を激励をしてくれた薫に比べるあまりにくだらない話題に赤面する。
「えっといや、なんかパパから薫さんがパーティー行くって聞いて…ちょっとお話ししたいなーって」
芹の恥ずかしい気持ちとは裏腹に、薫はその話題に食いついた。
「アモルアのね!本っ当楽しみ!芸術に恋と愛は不可欠だもの」
「うちからは2人しか参加しないみたいですね」
「そうそう、面白いでしょ?あの冴島君と行くのよ、ホント笑っちゃう」
薫はケラケラと笑った。
「あのクソ真面目を社長と私で引きずり出してやったのよ」
「そうですか」
(だとしても普通受け入れる?
しかも私に一言も断りを入れないなんて…)
内心で芹はイライラを溜める。
「アイツもホントどーしょーもない男よねぇ。過去の失恋引きずって、もう6年も恋人いないんですって」
薫のその言葉に、芹の怒りの熱は水をかけられたようにスッと冷めた。
(そうか…)
芹は冴島の彼女ではないのだ。
セフレ、或いは友だち、或いはただの社長の娘。
出会いの場に行くのに断りを入れる必要も、ましてや遠慮する必要もない。
何を勘違いしていたんだろう。
芹と冴島は、そんな関係ではなかった。
冷静さを取り戻した芹の胸は驚くほど冷えきっていた。
「…どしたの?」
薫がぼーっとする芹の顔を覗き込む。
「あっ、いいえ!…じゃあ私はそろそろ失礼します。
本ありがとうございます。お借りします、そして絶対にお返しします…!」
薫はドヤ顔で芹の肩に拳をぽんと当てた。
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