芹の憤慨

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腕時計を見る、まだ15:45だ。 美容院が思いの外早く終わったこともあり、つい早めに到着してしまった。 前回、服に対して若く見えると言われたことを気にして今回はIラインワンピースを着てきた。 背の高くない芹だがこれを着るとスタイルが良く見えるから気に入っている。 手持ち無沙汰だったので鏡を開いてメイクを確認する。 (綺麗め狙いとは言えちょっと気合い入れすぎたかな?) そんなことを考えていると、ポンポンと肩を叩かれた。 ぱっとその方向を見ると…見覚えのある顔。 がっしりした筋肉、太い眉、タレ目、八重歯… おっとりした犬のような、まるで癒し系みたいな顔をした浮気男。 芹の元カレの健一(けんいち)である。 芹は不愉快な顔を隠さずに前を向く。 「芹ちゃん、久しぶり」 そんな芹に対して臆することなく健一は明るく声をかけた。 無視するわけにもいかず、顔を向けずに渋々答える。 「…お久しぶりですね」 「連絡先もSNSもブロックしちゃうんだもん。酷いよ」 「何故そのような結果になったのかお忘れですか?」 健一は芹に色気がないと言い放ち、職場の巨乳な先輩と浮気をした男である。 「寂しかったよ」 仔犬のような顔で芹を見上げる。健一のほうがずっと背の高い男だが、顎を引き可愛い子ぶりっこをしている。 一部女子にはコレが効くらしい。芹には付き合っているときから何も感じないが。 「それなら早く恋人を作ったらいかが?例えばあの一緒にホテルに行った先輩とか」 「俺は別れることに同意してないよ」 「同意なんて必要ないはずでしょう。もう反故になったものです」 「俺のことが嫌い?」 そう尋ねられ、芹は健一と目を合わせる。 「ええ」 目をそらさず、ハッキリと伝える。 「嫌いです」 健一が芹の髪に触れる。その手を避けたとき健一は衝撃的なことを言う。 「パパ活してるのはあてつけ?」 「…は?」 健一は芹を見下し嘲笑う。 「俺見たよ、芹ちゃんが中年男と映画館に入るの。付き人とかの距離感じゃなかったよ」 先日の冴島とのデートを見ていたらしい。 芹が酷く腹立たしい誤解を解く言葉を選ぶ。頭を巡らせている隙に健一は芹の顎を掴む。 「酷い裏切りだよ芹ちゃん、清楚な芹ちゃんがおっさんに媚び売るなんて。…でも、そのお陰かな?ちょっとは色気がついたじゃん。俺NTR(ネトラレ)イケるくちなんだよね」 舐めるような健一の視線に悪寒が走る。 その大きな手そのものが穢れに思えて、1秒たりとも触れられていたくない。 嫌悪と怒りが混じりあい、考えるより先に手が動く。 パンッ! 乾いた音と共に健一の顔が横に吹き飛んだ。
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