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疲労感に打ちひしがれながらも、父には適当にワイヤレスイヤホンでも贈ろうと物色する。
ふと振り返ると、冴島が浮かない顔でぼんやりとしていた。
「どうされました?お加減でも悪いの?」
そう尋ねるとハッとして、何やらバツが悪そうに頬を掻く。
「いや…、他人から見たら僕たちは援助交際などに見えたりするのかと思いまして。だとすれば芹さんに申し訳がない」
「そんなの思う方が馬鹿なんです。この世には実際に年の離れた仲の良い兄妹もカップルもいるのに…見るからにご令嬢な私がそんなことしてると思う人は目が節穴ですわ」
芹は冴島を元気づけようと、あえてふざけた調子で気取った顔を作って見せた。
「違いない」
冴島はふっと暗かった顔をゆるませた。
芹は適当に父の好みそうなイヤホンを見繕ってラッピングしてもらう。
夕食は芹の好物であるイタリアンピザにした。嫌なことがあったら好きなものとアルコールを摂取するのが一番だ。
ピザを食べワインを嗜めば、芹はすっかり気分が良くなってくる。
「それで…冴島さんは今日はうちに来ます?」
どんなに遠回しな言い方でも、誘うときはいつも恥ずかしさで頬を染めてしまう。
そして冴島の回答もいつも通りだ。
「ええ、芹さんがお望みなら」
たちまち芹の頬は膨らむ。
「もう、いつもそれですね。私ばかりが誘ってます」
「僕から誘うのは畏れ多い、今日は特に。社長の指示で一緒にプレゼントを買いに来て、そのままご令嬢の家に上がり込むのは…罪悪感が2割増しです」
「背徳感は気持ち良いものだと聞いたことがあります」
「また変な情報ばかり仕入れて…」
冴島は苦笑しながらワインを飲んだ。
「男心というのは難しいですねぇ、千差万別」
「僕からしたら女心のほうが理解不能ですよ」
冴島が言うと重みがある。
重い話はごめんなので芹は軽い調子の声色を出す。
「あらっ、私はわかりやすいほうでしょう?」
「それは確かに」
冴島は机の下で芹の足をすり…と一瞬撫でた。
芹はビクッと跳ね、瞬間的に顔が沸騰したように熱くなる。
「…本当にわかりやすい人です」
冴島はクスクスと笑った。
芹は咳払いをして冷静なふりをする。
「もうっ!今日は絶対うちに来てもらいますからね!」
芹はヤケのように甘酸っぱいトマトとモッツァレラのマルゲリータを頬張った。
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