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芹 vs 茜
芹は柱の反対側に身を潜めると聞き耳を立てる。
「…なんで貴方がここにいるワケ…!?」
「…僕は今日は社長に…
…茜さんこそなんでこんなところにいるんだ。だって、君は結婚したんじゃ…」
「貴方のせいでしょう!?」
「え?」
「貴方のせいで私の人生設計めちゃくちゃよ!」
「…え、何の話を…」
「しらばっくれないで。あの人に他に男がいるってバラしたのが貴方でしょって言ってるの!フラれた腹いせに!」
「まさか…!僕はそんな…」
話を聞く限り、この茜と呼ばれた女が冴島の元婚約者であるらしい。
そして彼女は本命に3股がバレて婚約破棄に至ったと。
自業自得の話だが、どうやら彼女は密告者を冴島だと思っている…といった話だ。
それにしても冴島の歯切れが悪い。
「…雪成君、責任取ってよ」
「え…?」
「とにかく、貴方のせいで未だに独身なのよ。もう32歳なのに…本当ならとっくに結婚して専業主婦してるはずだったのに…。
雪成君だってまだ独り身なんでしょう?もしかしてまだ私のこと好きなんじゃないの?だったら…」
その言葉に短気な芹はプツンと切れた。
「ああっ、雪成さんここにいたんですね!」
芹はまるで今来たかのように小走りに冴島の腕にぎゅっと抱き付いた。
「!?せ、芹さん!?!?」
冴島は聞いたこともないようなすっとんきょうな声をあげる。
それにしても顔面蒼白である。しかし、それも仕方ない。かつて自分を裏切った婚約者が再び自分に迫ってきたのだ。
芹は同情した。
「ごめんなさい、仕事で遅れちゃって…。
あら、この方はお友だちですの?」
芹は改めて冴島の元婚約者を見る。
「…」
なんともまあ、美女である。
ゆるやかなウェーブをかけたしっとりとした長い髪、艶っぽい肌、ぷるっぷるの唇、インナーマッスルを鍛えているであろうメリハリのある身体…そしてたゆんたゆんの大きなお胸…
芹は心の中で嫉妬に狂ってキャンキャン吠えた。
だが…だが!
顔は負けてないはずだ!!!
芹は美しく見せるための微笑みの仮面を顔に被せる。
「初めまして、西園 芹です。GARDENで専属モデルをさせていただいてますわ」
芹が手を差し出すと、ポカンとしていた茜はハッと我に返ってその手を握る。
「山本 茜です。ブライダルコンサルタントをしています。雪成君は…古い知人です」
「まぁ素敵ですね。雪成さんたらこんなお綺麗なお友だちがいらっしゃるなんて…少し妬けてしまいます」
冴島を上目遣いに見上げると、冴島は未だに状況が飲み込めていないのか頭が回っていないのか「あ、いや…」とだけ言った。
「えっと、西園さん?」
茜が声をかけてきた。
「西園さんは雪成君とどういった御関係?」
芹の目が光る。
「恥ずかしいわ…ふふ、実はお付き合いしておりますの」
芹の放り込んだ爆弾に、冴島はむせて咳き込んだ。
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