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「…本っ当に…気色悪い…!ふたりとも」
茜は嫌悪を隠さない表情で吐き捨てる。彼女がその場を立ち去ろうとしたとき、会場の視線が3人に集まっていたことに気が付いた。
まずい。
流石の芹も焦る。
咄嗟に薫を目で探す。…そして、目が合う。
見られた。
話も聞かれた…?
「修羅場?」「今3股って言ってたわよ」「どこの会社の人かしら…」
そんなざわめきが耳に届く。
茜は顔を真っ青にしてから次の瞬間には真っ赤に染まって震えた。
彼女は早足に歩き出すと、逃げるように会場から出ていった。
茜が退場したことにより、野次馬のざわめきは徐々に静まっていった。
冴島は弱々しく壁に寄りかかり俯く。
「すみません芹さん…、あなたに恥をかかせた…。それだけじゃない、守ることも出来なくて…」
芹は冴島の頭をいいこいいこする。
冴島に罪はない。彼はどこまでも被害者だ。
背後から、コツ…と靴音が聞こえた。
芹が振り替えるとそこには薫がいた。腕を組み、顎に手を当てている。
「全く。ケツの穴の小さいオンナがいるものね!人の恋愛にケチつけるなんて何様のつもりなのかしら」
「薫さん、違くて…私、あの…咄嗟に冴島さんを守るために恋人なんて嘘、を…」
「いいのよ」
芹はそんな嘘を吐こうとしたが、薫は深い声でそれを遮った。
「わかってる」
「…」
薫の口許に湛えられた微笑みに、芹は言い訳をする気を失くす。
「冴島君、」
薫の呼び掛けに冴島が顔を上げる。
顔色は蒼白までとは言わないがまだ良くない。
「疲れたでしょう、今日はもう帰んなさいな。明日社長に何か聞かれたら上手いこと答えておくわ」
「…、
ああ…。すまない織間…助かるよ」
冴島はふぅと息を吐くと、背筋を伸ばしスーツの乱れを整え、まるで平静を取り戻したかのように振る舞った。
何事も無かったかのように帰ろうとする冴島に薫は「バカね」と笑う。そして芹の背中をポンと押す。
「酷い顔色よ。芹ちゃんに送ってもらいなさい。マンション、同じでしょ」
「…」
冴島と芹の視線がぶつかる。
芹がそっと笑かけると、冴島は後ろめたそうに目を背けた。
「はい、私送ります」
芹は冴島の背中に手を置いた。
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