芹と恋

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「…でも、実際に目の前にしてやっとわかりました。僕が抱いていたのは未練じゃなくて苦痛だったんです。 間抜けな話ですよね、自分の感情すらわかっていなかったなんて」 冴島は自嘲気味に笑を含めながらそう言った。 しかし、それは芹にも当てはまることだ。 彼に恋心を抱いていると気が付いたのはつい先ほどのことだ。 「本当、間抜けです」 芹は同意しながら、冴島の背中に触れる。 「人を値踏みする女と、自分の気持ちさえ理解できない鈍感な男…最悪な組み合わせだな、破局して正解です」 痺れを切らした芹は冴島の頬をペチンと両手で挟むと、グイッと自分の方に向けた。 その暗い瞳の顔を見つめる。 「自分を嘲るのもほどほどになさって。 私は、私はそんなあなたを……気に入っているのですから」 芹はまだ「好き」とは言えなかった。 薫にバレたにも関わらず、すんでのところで持ち堪えたこの関係に再び揺らぎを投じることが怖かった。 「冴島さんには良いところがたくさんあるじゃないですか。堅物でくそ真面目なところとか」 ついふざけてしまう。 「…褒めてるつもりですか?」 「褒めてますよ。目立たなくて優秀で、お利口さんで可愛くて、むっつりすけべ」 芹がクスクス笑うと冴島はからかわれたことを察して片眉をあげる。 「なるほど、挑発してるわけですか」 芹はそれにはあえて答えずに、冴島の唇に顔を寄せる。 「…先ほどの続きはいつになったらしてくださるの?」 告白は、今度ちゃんとする。 今は、今だけは、甘い蜜だけ啜らせて…。 これで最後にするから。 芹は胸の中でそんな言い訳をしながら、冴島のキスを受け入れる。 その口付けは瞬く間に深くお互いを求めるように、粘膜を刺激しあう戯れへと変わる。 芹は冴島のネクタイを外し、ボタンを開ける。 「ん、随分積極的ですね」 「ふふ、私こう見えてヤキモチ妬きなんですよ?」 「前にも言ったでしょう、そんな気持ちになる必要はないんですよ」 「なっちゃうものは仕方がないじゃないですか。だから…」 芹は冴島のシャツのボタンを全て外してしまうと露になった素肌に手を滑り込ませる。 「私がいないと駄目な身体になっちゃえばいいんです」 芹はいつかマジックで書かれた小さな「芹」の文字を親指で潰した。 冴島はそんな芹の腰を抱き身体を引き寄せる。 冴島の火照った身体から発せられる彼の匂いが香りが、芹の発情を促した。アルコールにでも酔ったみたいにクラクラしてくる。 「そこまで言うなら僕の興奮することしてくれるんでしょう…?」 冴島はネクタイを手に取り、芹の目を塞いだ。
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