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「…わかりました」
冴島は前髪を掻きあげながら身体を起こす。
そして眉間にシワを寄せながら、嬉しそうな芹の顔をむぎゅっと掴んだ。
「でも、僕からも条件を出させてもらいます」
「条件?」
「この関係は他言無用です、特に会社では。もし社長や他の社員に知られたら僕は二度とあなたに会いません。
あと、セフレというなら僕の趣向にも付き合ってもらいますからね。
…この二点、ご了承いただけますか」
「はい!」
頬を掴んでいた手が緩み、今度は優しく撫でる。
冴島の厳しい表情もとけている。しかしその代わり、その瞳にはどこか寂しそうな色を湛えているように見えた。
「…それで、お嬢様は今夜はご所望ですか」
妙に皮肉っぽいニュアンスで冴島がそう尋ねる。芹は冴島の服をぎゅっと握り頷いた。
潤んだ目で見上げると、冴島は吸い寄せられるように芹と唇を重ねる。
そうっと、触れるだけのキスだった。
その柔らかい感触だけでぞわぞわと全身が悦ぶ。
芹の方から、ちゅうと冴島の下唇を吸い、舌でチロリと舐めた。
冴島はそれに応えるように舌を口内に入れ込む。ぬるりとしたそれはゆっくり粘着質に芹の舌を味わい犯す。
(キスだけでこんな…)
芹は子宮がキュウと痛い程疼くのを感じた。
やっぱりだ。冴島という男には芹の興奮を煽る何かがある。
夢中になっていたが、冴島はついに離れてしまった。
至近距離で目が合うと、冴島は珍しく吹き出すように笑った。
「なんて顔してるんです」
「えっ」
「その物欲しそうな顔のことです」
芹は恥ずかしさを誤魔化すためにむうっと口を膨らませた。
「意地悪な人ですね!ほら行きますよ!」
ぷりぷりと怒るふりをしながら芹は席を立つ。
「はいはい、お嬢様」
冴島は呆れ顔をしながら後に続き、芹の腰を抱いた。
ホテルにて
バスルームから下着だけの冴島が出てきて思わず目をそらす。
大理石みたいに白い肌にうっすらと浮かんだ筋肉が、この人は自分と違う、男性なのだと強く思わせる。
そんな冴島が、先にシャワーを浴びバスローブ姿の芹のいるベッドに座った。思わず毛布で身体を隠す。
「今更そこは照れるんですね」
「照れますよ…」
「変な人だな…」
冴島はぽそりとそう言いながら、芹を押し倒して馬乗りになる。
やはり顔が好みだ。
その暗い色の瞳も、鼻筋も、薄い唇も、…かっこいい…。
「僕の話、覚えてます?」
「?」
「ちゃんと僕の趣向にも合わせてくれるんですよね?」
「は、はい…できうる限りは…」
改めて言われるとちょっと怖い。
どうしよう、変な趣味だったら…。
そう不安を巡らせていると、冴島はおもむろに手に持ったフェイスタオルで芹の手首をベッドサイドに縛った。
「え、えっ?」
「タオルなら痕も残らないしいいでしょう」
こ、こうきたか…。
「顔に似合わずSな趣味なんですね」
こうなると何も出来ない。とりあえず口だけは弱気にならないように試みる。
「別にSってわけではないですが…」
冴島は毛布を剥ぎ、芹の太ももを撫でる。
くすぐったい指先だけのフェザータッチにぞわぞわする。付け根の辺りに触れたとき、不意打ちのように指をぐっと強く押した。
「んっ!」
「あなたみたいな真面目で生意気な小娘が、抵抗できずに可愛く泣いてるのは好きです」
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