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ジュリは息を潜めていた。
あと一回、あと一回の進化さえもぎ取れれば、良いのだ。
懸命に気配を薄くし、周りの草木と同化する。
ジュリは樹の理を意味する。
希望に満ちあふれ、西風と共に旅立った、あの幻獣の種子達の最後の生き残り――――
幻獣の始祖は、生まれてすぐは圧倒的な力を持つ。
けれども、今回の場合、その力はすぐに幾千幾万と不等分に分かれ、小さな種子達と結びついた。
稀なる植物の気質をも持つ、幻獣の小さな種子達。
ソレは旅立ってすぐに、鳥に、虫に、空を舞うモノ全てに狙われた。
なぜなら、ソレを食せば、莫大な力を得ることが出来るからだ。
空の上では、幻獣気質を持つ力ある種子達から、喰われた。
兄弟姉妹達の悲鳴に怯えつつも、懸命に僅かに分けられた力を内におさめ、気配を薄くする。
ソレがジュリに出来た全てだった。
ジュリには、幻獣の始祖から分かたれた力がほとんどなかったのも、幸いした。
力ある兄弟姉妹達に殺到する捕食者達からは見向きもされず、ジュリは何とか母なる古樹から遠く離れた、彼の地へと辿り着けたのだ。
悲鳴を上げて、河や海へと落下していった種子達もいた。
当時、無事地面に着地出来ただけでも、ジュリには十分に思えた。
しかし、其処は疎らな草木が生える地で、ここからがジュリの正念場だったのだが……。
植物でもあり、幻獣でもあるジュリはまずは大地に根を張り、地道に力を我が身へと蓄えだす。
けれども、兄弟姉妹達の悲劇が身にしみているため、用心深く内へと力を秘め、決して外には出さない。
ソレは、栄光ある幻獣の始祖に在るまじき、卑屈ともいえる姿だった。
それでも、ジュリは必死にありとあらゆる努力をして生きた。
陽の力を得るための茎や葉は、喰われぬよう、ビッシリとトゲを生やす。
少しでも効率の良い力の集め方を考え、実行する。
リスクは取らない。
そうした涙ぐましい努力もしつつ、何度も進化を繰り返し、少しずつ成長していく。
その名の通り、植物の性質を色濃く受け継ぐジュリは、宿り木に力が満ちるまで、この場を動けない。
幻獣としての意識はあるが、器がないのだ。
そうして、やっとあと一回進化すれば、次なる力の覚醒と幻獣としての新たな器を得ることが出来る、と本能が告げている今――――
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