山の上の家

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 そこは不可思議な空間だった。まるで明治や大正のような昔の時代から時が止まったような、そんな趣を感じさせる場所だったのである。家も立派で堅牢であり、館というのに相応しいものであった。インターホンが見当たらないので直接扉を叩く。が、誰も出てこない。参ったなと思っていると、突然両目が塞がれた。 「なっ!?」 「ふふ、だーれだ?」  どこかで聞いた女性の声だ。その時俺に電流が走り、無意識に叫んでいた。 「霧か!?」 「そうよ、祐一。久し振りね」  ゆっくりと両目に光が差し込む。眩しさに俺は今度は自らの意思で両目を閉じたが、両頬にひんやりとした感触が伝わると慌てて瞼をこじ開けた。 「冷た!」 「ふふっ、祐一は変わらないねぇ」  霧という女が俺の頬を両手で包んでいた。真夏のこのくそ暑い気温にも関わらずその両手は氷の様に冷たかった。女性はこちらの反応を楽しんでいるようで変わらず笑顔だ。どことなく冷たい感じがするのは気のせいだろうか? 「えっと霧、久し振りだね」  未だ朧げな記憶であったが、それが急速に解凍されていってるのを感じた。そうだ俺は、いや僕はこの子を知っているのだ。とてもよく。 「そう、十年振りかしら?」  殺意を感じた。真夏の玄関先で氷の様な感情がぶつけられて、冷や汗をかく。 「まぁいいわ。こうして戻ってきてくれたことですしね」  そう言うと彼女は霧は僕から両手を離すと、家の中に入っていった。一瞬迷ったが、彼女の後に続いていくことにした。
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