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夜明けを待ちかねてベッドから身を起こす。目隠しとして四方に垂らされたカーテンをそっと手繰り寄せる。私物を置く小さなテーブルの時計はまだ朝は遠いと私に教える。
同室のみなさんを起こす事の無いよう、そして無用に心配の目を向けられぬよう、そっと四人部屋を抜け出した。
入院患者はみな寝静まっているようだ。規則正しく扉の並ぶ廊下は暗く、床は滑らかに遠くの光を反射している。点滴を吊るすスタンドを音を立てぬようゆっくりと押して病室から離れる。
これまでにも幾度も成功したエスケープ、私は自分以外誰もいない休憩室でいつものように窓から外を眺めた。
闘病の日々を励ましてくれる家族や友人が明るく振る舞う私を育てる。笑顔がとても上手になった自覚はある。ガラスにうっすらと映り込んだ顔で軽く口角を上げて確かめてみる。
窓越しに見える街路灯は遠くにまで並んでいる。光の列が照らす道路に、通る車はまばらで、暮らしが始まるのを待つ街は時間を止めているようだ。私もその中に組み込まれるように願い、息を潜めて動かない光の列を凝視する。
そんな願いが叶う筈もなく。朝日が差し始め、白かった空は青みを深め始めた。
しばらくすれば空の星は朝の光に溶けて、いつも通りに今日は始まるのだろう。何度でも当たり前のように繰り返される。
今のままでいたい。
何度でも同じように平凡に日々が続けばいいのに。
眠れないままに夜明けを待つのは何回あったかなと数えてみる。指を広げた手のひらを見下ろす。
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