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第17話 狙われている財産
小型の監視カメラから送られてくる映像に、光一と美香の姿が映り、音声もわりとクリアに聞こえてくる。
「高塚さんは高塚物産の三代目でお金持ちなんだよ。もしも死んだら、財産は美香とお義兄さん2人の物だよ」
さすがの光一も、美香の言葉に目を白黒させている。
「お前、まさか、結婚してすぐに殺す気じゃないよな」
「ちょっと声が大きい」
光一と美香は辺りを見回して、誰もいないことを確認する。
だが、いくらなんでも家の中に本人がいるのに、殺す殺さないの話しを扉を隔てた場所でするなんて、バカ過ぎる。
こんな奴らが、自分の夫と妹なのかと思うと、清香こそ穴があったら入りたい心境だ。
しかも隣に高塚がいて、一緒に話しを聞いている。これは一体、どんな罰ゲームなのか。
「清香さん、僕は気にしてないので、こんな人達のせいで、傷付かないで」
うつむいて足元ばかり見ている清香に、この人は気にしてない、大丈夫だと繰り返す。
「でも、あの2人が高塚さんに、何かしてこないか心配です」
思い詰めた目が、瞬きも忘れて高塚を見つめる。
「大丈夫。あの2人は僕が結婚するまで手を出したりしないはずです」
「あ」
「そう、あの2人が欲しいのは僕の財産だから、僕と妹さんが籍を入れるまでは、僕は安全なはず」
高塚の予想は正しいだろう。でも、こんなドラマみたいな恐ろしい展開は考えても見なかった。
光一を夫に選んだ清香が言うのもおかしな話しだが、高塚を選ばずに光一を選ぶ理由が分からない。
むしろ、浮気相手で焼きもちを妬く光一こそ殺してしまえばいいのに。
密やかに高塚に好意を抱きつつあった清香は、高塚を殺した後の話しをする光一と美香を、絶対に許さないと心に決めた。
「チュウ、ペチュウ」
スマホから卑猥な水音が聞こえてきて、清香と高塚はスマホの画面に目を向ける。
すると光一と美香がこれ以上ないくらい体を絡み付かせて、お互いの唇に吸い付いている。
存分にお互いの舌を吸いあった後で、ゆっくりと体を離した光一と美香は、離れがたいと言うように、お互いの指を絡めている。
ここで清香が、光一とは離婚するから、美香が結婚すればいいと言えば、ことは簡単に解決するのだろうか?
この2人には罪悪感は無いけれど、欲望だけは大きいから、高塚の財産を絶対にあきらめないだろう。
清香はスマホに送られてくる監視映像を止めた。
「録画してありますか」
「勿論です」
「妹さんですが、大丈夫ですか?」
これは美香ではなくて、いろんな意味で清香を心配してくれている言葉なんだろう。
「もう覚悟は決まっているので」
バタン
扉が開いて、光一と美香が戻り、玄関で靴を脱ぎ部屋に入ってくる。
「なんか、取り乱しちゃってすみません。こいつは実の妹みたいなものなので」
恥ずかしげもなく戻ってくる2人に、高塚も清香もあきれるしかない。
「そう言うことなんですね。構いませんよ」
「それで、結婚を前提と言ってたのは、いつ頃になりそうですか?」
10分前には結婚と聞いて血相を変えていたのに、財産の話しを聞いたら目の色が変わった。
(マジでゴミだ。社会のクズだ。死ぬべきはお前だ)
「おい」
「え?」
「どうしたんだ、ボーッとして?妹の結婚なんだから、お前も張り切らないとな」
「ご祝儀奮発してね」
「うん、任せて」
(この期に及んで、まだ金の話をするのか。死ね、死ね、死ね)
「お義兄さんと美香さんが、そんなに結婚を急いでいるなら、僕は来月でも構いませんよ。その前にご両親にもご挨拶して、顔合わせもしないといけませんね」
「わあ、嬉しい」
美香は大喜びで、高塚の元へいき抱きつく。
これで、結婚までのカウントダウンが始まったわ。
完璧な計画を練って、死ぬ方がマシって目に合わせてやる。
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