第1話 浮気相手

1/1
前へ
/20ページ
次へ

第1話 浮気相手

「清香ちゃんのご主人、よくお宅に遊びに来ている若い女の子と、腕を組んでホテルに入っていくのを見たんだけど、気を付けたほうがいいわよ」 近所の世話焼きおばさんが、道端で話しかけてきた。 でもいつもの、本当に意味のない無駄な情報じゃない。 旦那が、若い女とホテルに入っていったですって!! 「はははは、勘違いだと思いますけど、ちなみに何処のホテルですか」 清香は顔をひきつらせながら、情報を求める。 それだけでも屈辱なのに。 「駅の裏手にあるダイヤモンドってブティックホテルよ」 言い方変えても、ラブホテルでしょ。いっそセックスホテルとでも付ければいいじゃない。 「ははははは、最近はブティックホテルで、会議とか打ち合わせとかするんですよ。女同士で食事会とか」 「そうね。多分、そうだと思うわ」 旦那の浮気を教えた相手は顔面蒼白で、世話焼きおばさんも、これ以上、何も言えなくなる。  浮気を聞いて、さっそく、駅の裏手にあるホテルを張り込むことにする。 「やだー、お義兄さんたら、部屋に着くまでダメだったら」 「美香が可愛すぎて、ボクチン待てない。ん~」 まるでバカップルのような2人が、清香の旦那の光一と、妹の美香。 「そんな嘘でしょ。うちの旦那が、美香とだなんて」 そう言えば、世話焼きおばさんが、いつもうちに来ている若い女って言ってたわ。 本当に私の妹の美香のことなんだ。 美香と光一が浮気をしてるなんて。 待って、どうすればいい?私はどうしたいんだろう。 出来れば、光一を取り戻したい。 でも、一度離れた心が戻らないことも分かっている。 2人を信じて一度も疑ったことさえない。だけど、これからは何一つ信じられない。 その日を境に、部屋という部屋全てに、隠しカメラや盗聴器をしかけて、夫の行動を全て把握出来るようにした。 でも、2人とも私の大好きな人たちだし、一度の過ち┅┅には見えなかった。 でも、反省して別れてくれたら、全てを水に流して、光一とやり直すのよ。 美香と別れる気がないなら、2人とも覚悟しなさい。 「ふふふふふふ」 今の清香を見たら、周りは、頭がおかしくなってしまったのではないかと思うかもしれない。 ◇◆◇  家でWebデザイナーの仕事をしている光一は、好きな時間に起きて寝て、気が向いた時に仕事をしていると清香は思っている。 けれど才能はあるのか、収入は普通のサラリーマンと変わらない。 清香が考えた作戦は、清香が変わること。 まずは、お互いにずっと家にいるので、清香もお洒落をしなくなっている。 ついついジャージーや楽なワンピースで、買い物にまで行ってしまう。 まずは昔着ていた、旦那にも可愛いと褒められたツーピースを着てみる、着てみる、着て┅┅。 ウエストが閉まらないよ~。 「ちょっと、そこまで言ってくるね」 清香は財布を持って、玄関に向かう。 ガチャ 清香が開けてもいないのに、扉が開く。 「あれ、お姉ちゃん、出かけるの?」 「今、鍵開けなかった?」 妹の美香に合鍵など渡していない。 いくら妹でも、家の合鍵を渡すことなんてしない。 しかも相手は、夫と浮気をしている。 「ああ、お義兄さんが、鍵がないと不便だろうって、作ってくれたんだよ」 不倫相手に堂々と合鍵を渡したですって? 出かける前に頭に血が上り、暴言を吐いてしまいそうなのを必死でこらえる。 全ては証拠を掴み、自分に有利にことを運ぶためだ。 浮気相手を残して家を空けるのは、物凄く嫌だけれど、今こそ証拠を撮るチャンス。 「行くべきか、行かざるべきか」 「何言ってるの?年取ってボケたんじゃないの?」 これはいつも美香が人に向かって言う軽口だと思っていたけれど、浮気が分かってからは、悪意があったのだと、今さらながらに思う。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加