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第10話 高塚の連絡先
美香にはお金持ちの三代目か光一のどちらかを選んで欲しいと思っていたが、自分の甘さを痛感した。
「お姉ちゃん、子供じゃないんだから、バカなこと言わないでよね。結ばれない相手だから興奮するんじゃない」
「興奮?」
「お姉ちゃんも一回、お義兄さん以外の人と遊んでみたら分かるよ。そうやってお義兄さん一筋みたいのが、重いって嫌われるんだよ」
「あんた、本気で言ってるの?」
「あたしじゃないわよ。お義兄さんが言ってたんだから」
きっとクズ男が寝物語に清香の悪口を言って、美香のご機嫌でも取ったのだろう。
だったら、美香が他の人と遊んだらどうする?一筋が重いと言ってられるのかしら?
そうじゃない。それじゃあ、つまらないわ。
この女は光一も、高塚も手放す気はない。
高塚は、清香に興味があると言った。だったら、高塚を美香に渡さなければいい。
玄関の扉が開いて、光一がコンビニの袋をぶら下げて帰ってきた。
「美香、ソフト買ってきたぞ」
光一が部屋に上がる。
「やったー。美香ソフトクリーム大好き」
その時、光一と美香の間に秘密の暗号でも決めてあるのか、視線で会話をしているのを感じる。
ソフトを手にすると、光一を見ながら下から上に向かって舌でソフトクリームを舐めまくっている。
クズ男はゴクリと大きく喉を鳴らして、美香から視線を動かせなくなっていた。
「私のは?」
光一と美香の空気を壊したくて、頼んでもいないアイスを買ってきてくれたか聞いてみた。
「ちっ、何だよ。欲しいものがあれば言えって言ったろ」
光一は面白いテレビを見ている最中に、つまらない話しをするなとばかりに舌打ちされた。
◇◆◇
美香は、金曜日の夜には三代目と会い、土日には光一に会いにくる。
姉の夫と浮気をしている妹は、姉の目が気にならないのか、信じられないほど大胆に振る舞う。
ハイスペックな高塚を美香なんかに渡してやるもんか。
「高塚さんに会おう」
仕事部屋にいる光一を気にしてトイレにこもり、スマホを出して、電話帳から友美の名前を出して電話をかける。
「友美、相談なんだけど」
「どうしたの?」
「美香がね、光一とも高塚さんとも別れる気はないって。高塚さんは夫で光一は恋人にする気みたいなの。まあ、旦那の名前までは言ってないけど」
「さすがだね。必ず最悪のムカつく手を打ってくるんだね」
そうだ。美香は清香にとってだけ、いつも最悪な選択をしてくる。
「私、高塚さんに会ってみようと思うんだけど」
「あー、いいね。妹からハイスペック君、奪っちゃおうよ」
「うん、高塚さんと結ばれて美香が幸せになるなんて許せない」
「そりゃあ、そうだよ。どうせ清香のことだから、高塚さんと幸せになってくれたら、旦那が帰ってきて円満解決とか思ってたんでしょ」
「何で分かったの?まさか監視カメラを見てるとか?」
何でも知っているかのような友美の発言に、小心者はトイレの中で監視カメラに視線を向けた。
「いや、私のスマホに清香ん家の監視カメラ映像なんて送られてくるはずないよね」
「だよね。はは」
友美の言葉で清香はやっと、ホッと出来た。自分で監視カメラを設置しておいて、それにビクビクするなんて、ほんと情けない。
「高塚さんの電話番号教えるから、今、かけてみなよ」
「い、今┅┅」
「美香が強行手段とかでる前に、早めに会っといた方がいいんじゃないかな」
友美の脅しのようなアドバイスに、清香も覚悟を決める。
「番号教えて」
「そうこなくっちゃ。言うよ」
「待って、待って、OK」
「090✕✕✕✕✕✕✕」
清香はスマホに番号を入力した。
「かけてみるね。またね」
細くなった指が、スマホに高塚の連絡先を入れると「えい」と気合いを入れて、電話をかける。
「はい、高塚です」
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