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第13話 美香からの電話
スマホが鳴り、バッグからスマホを取り出して画面を確認すると、美香からの電話。
大きな黒い瞳が、高塚の顔を見て様子を伺う。
「妹さんだったら、スピーカーで一緒に聞くのは悪趣味ですか?」
「いいえ、妹を知ってもらう為にも、いいと思います」
清香はスピーカーに切り替えて電話にでる。
『ちょっとお姉ちゃん、主婦が昼間から家を空けるって、どういうつもり?』
「また家に来てるの?」
『そうよ。早く帰ってきてご飯を作りなさいよ。お義兄さんも私もお腹ペコペコなんだから』
「旦那には出かけるって言ってきたし、美香がいるんだからご飯作れば」
『私、ご飯の用意なんてしたことないの知ってるでしょ。ご飯作るのはお姉ちゃんの役目じゃない』
「┅┅忙しいから切るね」
『ちょっ』
「会っていた時の妹さんは、やっぱり演技だったか。最初から興味がなかったけど」
「いつもあんな感じで、昔から家政婦扱いなんです」
「そしてあなたは、思ったより優しくて我慢強い人なんでしょうね」
「え?」
男性で私たち姉妹を比べて、清香の味方をする人に初めて会った気がする。
美香は男性の前では猫を被り、初めて付き合った相手に毎日お弁当を持っていったが、それは毎朝、清香が早起きして作ったお弁当だった。
「そんな風に私の味方をしてくれる人は初めてです」
思わず本音がこぼれてしまう。
「あまり周りの人間に恵まれていないようですね。でも清香さんには原さんもいるし、これからは僕が力になります」
「高塚さんと友美がいてくれて、心強いです」
「お待たせしました。アイス烏龍茶です。こちらはおつまみになります」
おつまみを頼んだ覚えはなかったが、高塚が頼んだか、元から飲み物を頼むとおつまみが出てくるのだろうか?
「では、今後の予定を相談しましょう」
高塚は手帳を取り出して、空白ページを開く。
「実は美香は結婚相手には高塚さんが最適で、恋人には私の夫を望んでいるんです」
「なんとなくですが、妹さんは旦那さんとの関係を隠す気がないように見えますね」
それは清香も不思議に思っていたことで、でもそんなことがありえるのか分からずに、一人で抱え込んでいた。
「そうなんです。でもどうしてそんなことをするのか分からなくて」
「そうですね。それはいずれ分かるかもしれないし、ひとまず置いておきましょう」
「はい」
「それで清香さんは、妹さんと旦那さんをどうしたいと思っていますか?」
これは簡単なようでいて、難しい問題で、清香自身も2人についての気持ちが短い間にコロコロ変わってしまう。
「最初は、高塚さんを気に入ったようなので、2人がまとまれば全てが上手くいくと思っていました」
「┅┅」
「でも美香は結婚後も二股をかけるつもりだと知り、美香から高塚さんも旦那も引き離そうと思ったけど」
「また考えが変わったんですね」
コクリと清香はうなずく。
「結論は美香と私の夫はお似合いだということです。私は夫と離婚したいし、美香と夫を奪い合うつもりはありません」
「でも一つだけ、妹さんが他の男に手を出して被害者が出ないようにする必要があると思うな」
「そうですね。また私と同じような被害女性も作りそうですし、美香の本性を身内にだけでも公表するのがいい予防策になるかもしれません」
「身内に公表か、だったら、誕生パーティーを大規模に開いて、そこで本性をばらすとか?」
高塚の話しを受けて考えた清香の話しを、高塚はさらに形として表現してくれる。
この人は口先だけではなくて、本当に浮気をされた知り合いの知り合いに過ぎない1人の女を助けてくれる気なのね。
「そうですね。身内の集まり┅┅でも美香には味方となる友人も多いので、その人たちにも知っておいて欲しいです」
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