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第14話 高塚の言葉
「ちょっと失礼」
穏やかな声が、清香に断りを入れて席を立つと、その場を離れていく。
トイレかな?
「何の話をしてましたっけ?ああ、そうだ」
高塚はすぐに戻り、今までの話しを再開させる。
「作戦を立てて、それを成功させる為には、僕がもう少し妹さんと仲良くなるフリをしないといけませんね」
「確かに。美香は結婚、結婚騒いでますけど、さすがに3ヶ月の間に週一回夕飯を食べただけで結婚と言うのは無理がありますよね」
「それと僕と旦那さんがいる時に、妹さんと旦那さんがどんな態度に出るかも撮影しとくと使えるかもしれませんよ」
友美に聞いて、どうやら高塚は清香が家中に監視カメラを隠していることを知っているようだ。
あまり褒められたことではないから、人に知られたくなかったけど、清香の協力をしてくれる仲間なんだから仕方ない。
「4人で集まるとなると、家に招待するか外でWデートするとかですかね?」
「Wデートか、相手が逆なら楽しめるだろうけど┅┅まだ早いですよね」
コクリ
小さな頭が頬を染めてうつむいてしまう。浮気をされているとは言っても、夫のある身だ。軽率なことは出来ない。
「僕は待ちますよ。ちゃんと旦那さんの浮気を証明して、離婚してから申し込むつもりです」
何をそんなに気に入ってくれたのか清香には分からないが、光一がいなければ高塚の手を取っていただろう。
「今は何も答えられません。答える資格がありません」
それが高塚に言える精一杯の答えだった。
「そうだ。ちょっと意地悪な作戦を思い付きました┅┅」
悪戯っ子のような瞳で、自分の考えた作戦を清香に聞かせた。
ふふ。美香があわてる様子が目に浮かぶようだわ。でもイタズラの内容は子供騙しのようなもので、高塚が根っからの善人であることを思わせる。
一応、今後の作戦も立てたので、今日はここまでだろう。
「もっと一緒にいたいけど、うるさい妹さんもいることだし、我慢します」
「何だか身内の恥をさらしまくって、すみません」
「いいえ、将来の為にもゴミは綺麗に掃除しとかないといけませんから」
あら?割りと毒舌。それに将来って言葉が少し気にかかるけど┅┅。
席を立つと大きな手が、清香に差し出されたので、清香もその手を借りて、ソファから立ち上がる。
支払いのレジカウンターには向かわず、そのまま専用のエレベーターに向かうと、出口にウエイターが立っていた。
清香は高塚が、支払いを忘れたのだと思いバッグから財布を出そうとする。
「こちらご注文いただきましたオードブルの詰め合わせでございます」
「ありがとう」
高塚は菓子折りのような綺麗な紙袋を受け取り、清香の背中にそっと手をそえて歩くように伝える。
ウエイターはエレベーターを呼び、ドアに手をそえて軽く頭を下げている。
2人がエレベーターに乗り込むと、ウエイターは手を離して、深くお辞儀をして見送った。
清香は烏龍茶を飲むのに、こんなに丁重に見送られたのは初めてだった。
「車で送っていきますよ。妹さんに会うといけないから、松友屋の新館前でいいですか?」
松友屋本館前は交差点となっており、車が停めにくいが、新館前は奥まっており駐車スペースも用意されている。
「よろしくお願いします」
ヒルズから出て車で送ってもらったのだが、外はまだ明るい。
夕方なら夕焼けが、夜なら夜景が綺麗だっただろうなとバカなことを考えていた。
「疲れましたか?」
「いいえ、久しぶりにワンピースを着て、素敵なところでお茶をして楽しかったです」
「それは良かった。また作戦会議が必要な時には、ここに一緒に来ましょう」
「はい」
いけないと思いつつ、「はい」と肯定してしまう。清香は高塚とまた来たいと思っているのだ。
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