第15話 お土産

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第15話 お土産

 車で送ってもらい松友屋の新館前に到着した。 サッと車を降りた高い影が、助手席側の扉を開いて、車の天井に手をそえて清香の頭をぶつけないようにする。 そこで清香が車から降りた。 「気を付けてお帰りください。あとこれ、食事がないと文句を言われそうだから、オードブルを持ち帰れるようにしました」 席を立った一瞬に、高塚はオードブルを注文して、清香が光一と美香から少しでも文句を言われないようにしてくれたのか。 「ありがとうございます。これがなかったら、確かに文句を言われるような気がします」 せっかくの厚意なので遠慮せずに、細い手が紙袋を受け取り、軽くお辞儀をした。 「じゃあ、次に会うのは今週か来週の土日のどちらかになりそうですね」 「はい」 今週も金曜日の夜に美香と食事をするから、その時に清香の家に挨拶に行きたいと高塚から美香に話す作戦だ。 美香に聞いてみないと分からないが、最近は土日を光一に会うために清香の家に来ているので、いつになったか連絡を待てばいい。 ◇◆◇ 『来週の土曜に、高塚さんが挨拶に来るから、昼食は豪華にしてね』 美香が電話で、高塚の訪問と食事の準備をしろと連絡してきた。 「何故、実家じゃなくて家にくるの?それにあなたの未来の旦那が食べにくるなら美香が自分で作りなさいよ」 光一は、美香が結婚したいと思っている相手のことを知らないので、仕事部屋にいる光一に聞こえないように声をひそめる。 『そっちに行くから待ってなさいよ』 美香は電話を切った後、きっとあわてて、こちらに向かっているだろう。 ソファに座って、美香が怒ってやってくるのを待つ。 35分後 ガチャ 合鍵を使ってドアを開けて、美香が家の中に入ってくる。 「私が金持ちと結婚するのが気に入らないのね」 「あの人が部屋で仕事してるから、あまりうるさくしないで」 「っ」 清香よりも美香の方が光一に知られたくないようで、両手で口を押さえている。 「そこまでしなくてもいいわよ。休憩取るように呼んでこようか?」 「仕事中なんだから、いいわよ。それより美香の結婚相手が家に来るんだから、お姉ちゃんが料理を作るのは当たり前でしょ」 美香は何故、当たり前の理屈が分からないのかと、自分の正義を主張してくる。 「美香、家族の家に遊びに来るとか、挨拶に来る時は、結婚相手が料理を振る舞うものよ」 「だから、私が作ったって言えばいいじゃない」 「結婚して、あの時の料理を作ってくれって言われたら?言われなくったって、毎日の食事でバレるわよ」 「じゃあ、どうする気よ」 「結婚したら料理はどうする気なの?」 「お姉ちゃんが作りに来てくれない?」 「隣にでも住む気?」 「高塚物産の三代目の新居よ。こんな下町のアパートみたいなところに住むはずないでしょ」 毎週のように光一に会いに来るくせに、どうしたらこんな台詞をはけるのか不思議でならない。 「それで結婚したら、どうするの?」 「ケータリングを頼んで皿に盛り付けるからいいわよ。お姉ちゃんって本当に使えないわよね。何の為に生きてるんだか」 「┅┅」 本当に話しにならない。 清香は、光一とは美香の浮気を知ってから、2人を一歩下がって見ている。 そのせいか、2人が殺したくなるレベルのクズだと言うことが分かる。 「そうだ、ケータリング頼んで、お姉ちゃんは料理を作らなくてすむんだから、お金払ってよね」 「美香は高い店のケータリング頼む気でしょ。嫌よ」 「そんなことしないわよ。ケータリングくらいお金払ってくれてもいいじゃない」 美香は思い通りにならないと、イライラして声をあらげ始める。 「時間だけ決めてくれたら、私が適正価格で頼んで払ってあげるわ」 私に頼んだこと後悔しないといいけど┅┅。
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