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第20話 異母姉妹
母は口を押さえて、涙を浮かべて、今にも泣き出しそうになっている。
「なんだ、これは?夢でも見てるのか」
その時、立ち上がった父親が突然倒れてしまう。
「きゃあ、あなた」
ひっそりと涙をこらえていた母が、父が倒れて大慌てで駆け寄る。
「救急車が来たわ、一緒に乗せてください」
清香も高塚から一度離れて、父の様子を見て救急隊員に声をかける。
「分かりました。症状を確認します」
高塚が刺されたことで呼んだ救急車が、ちょうど到着したのだ。
「清香さん、お父さんを┅┅担架に乗せて」
「高塚さん」
高塚は、自分がナイフで刺されて呼んだ救急車の担架に、気を失っている清香の父を乗せていけと言う。
「では、意識を失われている男性を担架で運びます。ナイフで刺された方も、ナイフは抜かずにそのままで救急車にお乗りください」
◇◆◇
清香の父が脳卒中や心臓麻痺でも起こしていたらと心配したが、驚いて気を失っただけで、検査結果も問題ないと言われた。
高塚が用意した、病院の個室のベットで寝ている父は、少し不服そうだ。
「お父さん、私、高塚さんの様子を見てきます」
「ああ」
父の病室を出ると、細い手が、隣の病室の扉を開けた。
「清香さん」
まだ眠ったままかと思っていた高塚が目を覚まし、ベッドサイドに背中を預けて座っている。
「清香さん?」
清香は高塚に申し訳なさすぎて一歩が踏み出せなくなっていた。
「心配をかけてすみません。もう大丈夫です」
そんな清香に高塚が手を差し出す。
「謝るのは私のほうです」
「だったらお互いに謝らず、お互いに無事だったことを喜びましょう」
「ズーッ、はい」
清香はあふれそうな涙を、鼻をすすることでこらえて、高塚の胸にとびこんだ。
「痛い、痛い」
「ごめんなさい」
清香は、高塚から飛びのける。
「ははは、大丈夫」
そんな清香の手を大きな手が引き戻して、優しく抱きしめる。
「申し訳なく思って僕から逃げたりしないで」
「はい」
清香の目から、また涙があふれだす。
◇◆◇
父が回復して退院すことになり、父母が隣の病室の高塚を見舞いにやってきた。
「すまなかった」
父の言葉と同時に母も頭を下げる。
「止めてください。お父さんが倒れられて、僕の方こそ申し訳ないです」
「君が、清香の婿だったら良かったのに」
父は高塚の誠実な人柄を見て、本音をこぼす。
「そうよ。あんたも、どうして言わなかったの。美香が、光一さんと浮気してたなんて。しかも結婚相手の高塚さんを殺す相談をしてたなんて」
「まさか、あんな悪魔みたいな娘に育ってしまうとは思わなかったな」
父親の言葉と同時に、病室の扉が開く。
「あたしがいないところで悪口?まあ、お母さんとは血の繋がりもないものね。可愛がってるフリしたって、結局娘が可愛いんじゃない」
「娘の亭主を寝取られて黙ってる母親がいるとでも思ってたの?本当に性悪なあの女にそっくりだわ」
「母さん」
父が母を止める。
「あたしの母親を知ってるの?」
「お父さんに相手にされない女がお酒を飲ませて無理矢理関係を持って、あんたを身ごもったってやって来たのよ」
「それで、実の母親から子供を奪ったわけ?」
美香の目に憎しみの色がにじむ。
「奪う?家の前に捨てていったのよ。そんな女の娘を育ててやったのが間違いだったわ」
「嘘よ。実の母親があたしを捨てるわけない」
「嘘?あんたにそっくりな女の話しなのに?お父さんはやっぱり身に覚えがないとDNA検査をしたら、あんたとは血の繋がりがなかったわ」
「お父さんとも他人だと?」
また病室の扉が開く。
「港警察署の者です。殺人未遂で、秋山美香さんを緊急逮捕します」
突然やって来た体の大きないかつい男と、ひょろっと細身の男が病室に入ってくる。
「なっ、殺人未遂だなんて、あれは高塚さんが勝手に飛び込んできたのよ」
悪人は反省しないの見本のような女だ。
「詳しい話しは署でお伺いします」
美香は家族が揃う中で、警察官に連行されていった。
ちなみに光一は父母が退院する今日まで、一度も見舞いに来ていない。
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