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第4話 家政婦と呼ぶ女
ダンダンダンダン
包丁を握りしめた清香は、ネギを力を込めて千切りにしていく。
目の前でいちゃつく夫と妹を切り刻んでやるつもりで。
「ちょっと今日変だよ。何でネギを仇みたいに切ってるの。マジでこのおばさん、恐いんですけど」
おばさんって言葉に、堪忍袋の尾が切れそうになる。
我慢だ。
そうだ、この光景も冷蔵庫の上に置いた監視カメラで録画されているはず。
美香の本性を洗いざらい出させるんだ。
我慢、我慢、我慢、我慢出来ないけど、我慢。
2人がムカつく度に、ブツブツと唱える。
「レバニラ炒めと中華スープが出来たよ」
「どれどれ。これ、ちょっとしょっぱいから、お義兄さんの健康に悪いんじゃないかな?まさか保険金目当てで殺そうとしてるんじゃないよね?」
美香が味見をしながら、とんでもないことを言いだす。
「その冗談、誰が楽しいの?」
「美香はただ、お姉ちゃんが殺人を起こしたら大変だから心配したんだよ」
首をかしげて下から顔を覗き込んでくる美香に、怒りが込み上げる。
「自分の夫を殺すはずないでしょ。天津飯を作っちゃうから、食べてて」
「はーい、お義兄さん、出来たのから食べよ」
「おう、腹減ったな。おい、ハシが出てないぞ」
「お義兄さん、私が出してあげるね」
「美香は本当に気が利くな」
「そんなことないよ」
ハシを出すと言いながら、また2人でイチャイチャ。
「はい、オハシ」
清香は、3人分のハシをテーブルに置いた。
「最初から出せよな。食事にハシを出さないって、食べるなってことか?」
「ごめんね。お姉ちゃんって、昔から抜けてるところがあって」
「美香ちゃんが謝ることじゃないよ」
「うん、料理が冷めちゃうから食べよう」
「はい、天津飯よ」
清香は一皿分の天津飯をテーブルに置いた。
「おい、2人いるんだから、2人前作れよ」
鍋は1つしかないから、一皿づつしか作れないし、そもそも3人いるんだから、必要なのは3人前なのに。
「もうすぐ出来るから」
「お義兄さん、美香はいいから、お義兄さんが食べて」
美香は天津飯を光一の前に置いた。
「マジで清香と姉妹とは思えないよ。何でそんなに気が利くんだ」
「そんな、ただお義兄さんが美味しく食べてるところを見たいだけだよ」
美香のわざとらしい点数稼ぎを、昔から男たちが本気にするのを何度も見てきた。
でもまさか、自分の夫に愛嬌を振りまき点数稼ぎをするとは思わなかった。
しかも光一は、完全に美香にのぼせ上がっている。
「天津飯、お待たせ」
怒りを隠しながら、2つ目の天津飯をテーブルにのせる。
「もうオカズも食べ終わったのに、今頃出しても遅いんだよ」
美香に自分のオカズを半分やると言っていたのに、結局、2人でオカズを食べきってしまった。
清香は、冷凍パスタをレンジでチンして食べることにする。
パスタを食べている間に、美香はお風呂に入って、着替えて出てきた。
素っぴんで、ハーフパンツにノースリーブの美香を、夫は目で追っている。
美香もそれを分かっていて、お尻を振りながら歩いているのか。。
パスタを食べ終えて洗い物を片付けていると、美香が隣に立って話しかけてくる。
「男は女の子の素っぴんが好きなんだよ。どんなに美味しい食事を作って厚化粧したって、若さには勝てないんだから。だって化粧して料理を作る女なんて、ただの家政婦じゃない」
この女、妻の私を家政婦呼ばわりしたわね。
「家政婦ですって」
泡の付いたスポンジをギュウっと握りしめながら聞き返す。
「だから、お姉ちゃんもそうならないように気を付けてね。私は妹として心配してるんだよ」
美香と話していると、昔からよく胃が痛くなる。
この女、全部わざとだったのか。
清香の中で、美香は夫を誘惑する雌ブタに認定された。
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