第8話 友美との待ち合わせ

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第8話 友美との待ち合わせ

 元同僚の友美から連絡が入り、駅の裏通りの比較的、客の少ない午後に喫茶店で待ち合わせる。 「超金持ちのハイスペック君が、妹の写真をみて、協力してくれるっていうんだけどさ」 「無理、私、お金ないよ」 友美の話しから、ただでは協力しないと言ってるのを察して、清香は先に牽制する。 「いや、妹と一緒に写ってる清香の写真を見て、気に入ったみたいよ」 「いや、いや、いや。ありえないでしょ。妹に旦那を寝取られてる私を気に入ったとかって、それこそ詐欺だよ」 清香は、友美こそしっかりして、目を覚ましてと力説した。 自分のことを分かっているって悲しいな。 「気持ちは分からなくもないけど、嘘じゃないと思うよ。嘘つく理由がないし、この時の写真はダイエットして綺麗になった今の清香と同じくらい綺麗な時のでしょ」 「もう、友美が旦那だったら浮気されなかったのに」 会うと励まし優しい言葉を投げかけてくれる友人に、清香の瞳は潤んでしまう。 「ほら、また泣かないの」 小さな手が、素早くテーブルの上のナプキンを2枚取り出して、清香に渡す。 「ありがと」 清香は涙を拭きつつ、鼻からでた鼻水もこっそり拭き取った。 「それで旦那には内緒で、妹に話してごらん。超金持ちが、恋人募集中だけど、会ってみるかって」 「光一がいるのに、他の男に興味なんて持つかな?」 「もう一つ、余計なお世話に聞こえるかもしれないけど、急激に痩せると肌がボロボロになる人もいるから、気をつけて」 「ええ?」 痩せてショーウィンドウに映る自分はスマートだから、綺麗になった気でいたが、もしかしてと急いで顔を触ってみる。 「どうしよう。肌がゴワゴワしてる」 「やっぱり。大丈夫だから落ち着いて。果物食べるかコラーゲンサプリ飲んで、化粧水を肌に叩き込むのよ」 「こうやって」と言って、小さな両手で頬をパタパタパタパタと音がでるくらい強く肌を叩いて見せる。 「ご注文のアイスコーヒー2つでございます」 その時、注文していたアイスコーヒーが運ばれてきて、店員が一瞬、友美を横目で見たのを清香は見逃さなかった。 2人は顔を見合わせて「クスリ」と笑う。 「うん。分かった。果物とコラーゲンサプリと化粧水ね。帰りに買って帰るよ」 「人が目に目えて綺麗になっていくのって、なんか感動するよ。うん、ハイスペック君に、会ってみるのもいいんじゃない?」 「でも旦那もいて、美香のことも頼まないといけないでしょ。付き合うわけでもないのに、会うなんて時間を無駄にさせてしまうし」 「私、こんな状況でも真面目な清香が好きだな」 「うえん、私も~」 友美の言葉に、止まっていた涙が溢れだす。 「ほらほら、泣かないの」 小さな手がまたテーブルの上のナプキンを今度は4枚取って、清香に渡した。 光一と美香に酷い言葉や態度を投げつけられてきたから、友美の優しい言葉に涙腺が緩んでしまう。 友美とは喫茶店の前で別れて、清香は駅から少し離れたライプと言うスーパーに向かった。 さすがに頑張って痩せても、肌がボロボロじゃ意味ないし、今日からまた頑張ろう。 ◇◆◇  美香が家に来ていないことは監視カメラを確認して分かっていたので、実家に向かう。 父は商社に勤めていて、結婚する時に今の家を建てたらしい。 古いが二階建てで小さな庭もある。 合鍵で家の中に入ると、玄関で美香が靴を履いているところだった。 「今からお姉ちゃんのとこ行くつもりだったんだよ」 「待って、美香に話しがあるから、リビングに行こう」 「え~お義兄さんが待ってるのに」 清香はスマホをこれから座るソファの前のテレビに立てかける。録画機能をオンにして。 美香は清香がいてもいなくても暴言を吐いてくるので、録画は必須だ。
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