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第9話 三代目
清香は、テレビの前に置いたスマホを目で確認してから、話し始める。
「前に勤めていた会社の人が、美香に付き合ってる人がいなかったら、紹介したい人がいるんですって」
最初からハイスペックを売りにすると疑われるかもしれないので、美香の食い付き具合いで明かしていこうと思う。
「それって何してる人?」
「興味あるの?」
こんなに簡単に引っかかちゃうの?
「内容によるでしょ」
「お金持ちみたいだよ」
「本当に?絶対に紹介して」
「えっと、その情報だけでいいの?好きな人とかいないの?好きな人がいるなら、その人との恋を頑張った方がいいんじゃない?」
美香なら清香に悪いとも思わずに、好きな人、結ばれたい人がいると堂々と言うと思っていたのに。
「今は好きな人なんていないから、絶対に紹介して」
どう言うこと?たいして好きでもないのに、姉の旦那を寝取ったってこと?この女、マジで踏み潰してやりたくなってきた。
「うん、連絡しておくね」
「そうだ、友達にその人の好み分かったら聞いておいて。分からなかったら、清楚系お嬢様でいくしかないかな」
ああ、会う男でコンセプトまで変えられるのか。美香なら高級クラブでも上手くやっていけそうな気がする。
「美香、いい男紹介するんだから、飲み物くらい出してよ」
「自分で出せばいいじゃない。もう。今日だけだからね」
「ありがとう」
美香が台所に飲み物を取りに行った隙にソファから立ち上がって、テレビの前に立てたスマホを回収した。
◇◆◇
美香がお金持ちなら男を紹介して欲しいと言っていたことを友美伝えると、週末に顔見せを兼ねてデートすることになった。
2人のデートを友美の弟たちに日給1万円で追跡を頼むと、快く引き受けてくれた。
「はじめまして、秋山 美香です」
完璧な清楚系お嬢様に見えるのがすごい。
「僕は高塚 翔。高塚物産に勤めています」
「会社名の高塚物産って、同じ名前じゃありませんか?」
「ああ、祖父が創業した会社なので、僕は三代目なんですよ」
高塚 翔が、高塚物産の三代目と言うのは嘘ではない。
「まあ」
美香は目をキラキラさせて、狙った獲物を見定める。
今のところ美香に興味がないのに、姉の旦那と浮気していると聞いて、復讐を手伝ってくれる気になったらしい。
ありがたい話しではあるけれど、実際に美香に会って話したら、光一から美香を奪いたくなるのではないかと思っている。
高塚物産の三代目に狙いを定めたなら、光一との不倫は終わるはずだから、復讐の計画もここで終わらせるのが一番かもしれないと思う。
◇◆◇
「コンビニ行くけど、買ってきてもらいたいものあるか?」
「お義兄さん、美香アイス食べたい」
「OK、ふふふん、ふふふん」
光一は仕事の息抜きに、何がご機嫌なのか鼻歌を歌いながらコンビニに買い物に出かけた。
「紹介してもらった人と上手くいってるの?」
美香を探る為、光一が出かけたのを見計らって話しを持ち出した。
「まあね。彼は結婚相手として申し分ないわ」
「結婚相手として?それって好きな人とか恋人は他にいるってこと?」
「そんなの当たり前じゃない。好きな相手が貧乏だったら、結婚できないでしょ?」
結婚できない相手は貧乏人だけで、妻子持ちは奪えばいいと思っているのか?
「結婚するなら、お金持ちじゃないとダメに決まってるじゃない」
「三代目の人を好きになって、その結ばれない人とは別れたらいいんじゃない?」
「今の話しの流れで分からない?恋人と結婚相手は別だよ」
つまり、美香は光一との関係を終わらせる気もないし、三代目とは結婚する気でいるわけか。
浮気相手の妻に、バカみたいに正直に話してくれてありがとう。
やっとこの復讐は、後戻り出来ないと分かったわ。
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