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第1話 浮気相手
「清香ちゃんのご主人、よくお宅に遊びに来ている若い女の子と、腕を組んでホテルに入っていくのを見たんだけど、気を付けたほうがいいわよ」
近所の世話焼きおばさんが、道端で話しかけてきた。
でもいつもの、本当に意味のない無駄な情報じゃない。
旦那が、若い女とホテルに入っていったですって!!
「はははは、勘違いだと思いますけど、ちなみに何処のホテルですか」
清香は顔をひきつらせながら、情報を求める。
それだけでも屈辱なのに。
「駅の裏手にあるダイヤモンドってブティックホテルよ」
言い方変えても、ラブホテルでしょ。いっそセックスホテルとでも付ければいいじゃない。
「ははははは、最近はブティックホテルで、会議とか打ち合わせとかするんですよ。女同士で食事会とか」
「そうね。多分、そうだと思うわ」
旦那の浮気を教えた相手は顔面蒼白で、世話焼きおばさんも、これ以上、何も言えなくなる。
浮気を聞いて、さっそく、駅の裏手にあるホテルを張り込むことにする。
「やだー、お義兄さんたら、部屋に着くまでダメだったら」
「美香が可愛すぎて、ボクチン待てない。ん~」
まるでバカップルのような2人が、清香の旦那の光一と、妹の美香。
「そんな嘘でしょ。うちの旦那が、美香とだなんて」
そう言えば、世話焼きおばさんが、いつもうちに来ている若い女って言ってたわ。
本当に私の妹の美香のことなんだ。
美香と光一が浮気をしてるなんて。
待って、どうすればいい?私はどうしたいんだろう。
出来れば、光一を取り戻したい。
でも、一度離れた心が戻らないことも分かっている。
2人を信じて一度も疑ったことさえない。だけど、これからは何一つ信じられない。
その日を境に、部屋という部屋全てに、隠しカメラや盗聴器をしかけて、夫の行動を全て把握出来るようにした。
でも、2人とも私の大好きな人たちだし、一度の過ち┅┅には見えなかった。
でも、反省して別れてくれたら、全てを水に流して、光一とやり直すのよ。
美香と別れる気がないなら、2人とも覚悟しなさい。
「ふふふふふふ」
今の清香を見たら、周りは、頭がおかしくなってしまったのではないかと思うかもしれない。
◇◆◇
家でWebデザイナーの仕事をしている光一は、好きな時間に起きて寝て、気が向いた時に仕事をしていると清香は思っている。
けれど才能はあるのか、収入は普通のサラリーマンと変わらない。
清香が考えた作戦は、清香が変わること。
まずは、お互いにずっと家にいるので、清香もお洒落をしなくなっている。
ついついジャージーや楽なワンピースで、買い物にまで行ってしまう。
まずは昔着ていた、旦那にも可愛いと褒められたツーピースを着てみる、着てみる、着て┅┅。
ウエストが閉まらないよ~。
「ちょっと、そこまで言ってくるね」
清香は財布を持って、玄関に向かう。
ガチャ
清香が開けてもいないのに、扉が開く。
「あれ、お姉ちゃん、出かけるの?」
「今、鍵開けなかった?」
妹の美香に合鍵など渡していない。
いくら妹でも、家の合鍵を渡すことなんてしない。
しかも相手は、夫と浮気をしている。
「ああ、お義兄さんが、鍵がないと不便だろうって、作ってくれたんだよ」
不倫相手に堂々と合鍵を渡したですって?
出かける前に頭に血が上り、暴言を吐いてしまいそうなのを必死でこらえる。
全ては証拠を掴み、自分に有利にことを運ぶためだ。
浮気相手を残して家を空けるのは、物凄く嫌だけれど、今こそ証拠を撮るチャンス。
「行くべきか、行かざるべきか」
「何言ってるの?年取ってボケたんじゃないの?」
これはいつも美香が人に向かって言う軽口だと思っていたけれど、浮気が分かってからは、悪意があったのだと、今さらながらに思う。
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