一歩

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「次は○○」 僕が降りる停留所のアナウンスが、バスの中に流れる。 何十年振りかに乗ったバスの降車ボタンを押す時は、何故か分からないがドキドキした。 停留所にバスが停まり、僕はお金を払ってから、 「ありがとうございました」 と言って、外に出る。 冷房がきいていて、快適だったバスの中と違い、外は強い日差しが照りつけ、とても暑かった。 「よし、行こう」 僕は、自分に気合いを入れて、舗装された道を歩き始める。 初めて見る周りの景色をのんびりと楽しみながら歩いていると汗が額をつたっていく。 (それ程歩かずに広場に着くはずだ) 来る前に何度も携帯で調べたパンフレットを見て確認したが、距離はあまり無かったはずだ。 また毎日30分以上ウォーキングをしているので体力的には自信がある。 いつのまにか着ていたグレーのTシャツが、濃いグレーに色が変わっている。 少しずつ道に傾斜がつき、山道らしくなってきた。 道の両側には緑の木々が並んでいるが、強い日差しを遮ってくれない。 蝉の大きな鳴き声が、僕の体にまとわりついてくる感じだ。 (もうそろそろ着いてもいいのに) そう思いながら、歩いていると呼吸が少しずつ荒くなってきた。 汗は、一向に止まる気配は無い。 重心を前にして、ただひたすら傾斜のきつくなってきた道を歩き続ける。 前方に木々の間から白い看板らしいものが見えてきたので、僕はペースをあげて歩く。 「広場入口」 と書かれた看板を見た時は、 「よし」 と声が出てしまった。 ようやく広場に辿り着き、自販機のスポーツドリンクを2本買って、木々の陰になっているベンチに座り、1本一気に飲んだ。 喉から徐々に身体中に冷たさが染み渡っていくのが分かった。 ただ飲み終えると暑さのため汗が止まらなくなる。 でも木々の陰と先程まで感じなかった風のおかげで歩いている時よりもましだ。 前方には頂上が見える。 高さ的にはそれ程高くはない。 (あそこまで行くか) 僕は、ずっと迷っていた。 (せっかく来たのだから行くぞ) と言う僕と (ここまで来れば十分だよ) と言う僕がいる。 頂上を見ながら、 (どうしよう) と迷っていると、小さい子供の影が見え、話し声が聞こえてくる。 (子供が行けるのなら) と思ったら、どうするか決断できた。 僕は、ベンチから立ち上がり、頂上で飲む用のコーヒーを買って歩き始めた。
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