一歩

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再び日差しの強い中を歩き始める。 さっき少しだけおさまっていた汗が、また止まらなくなってきた。 それでも先程と違いきちんとゴールが見えているから (いつ着くんだ) という不安がないので、精神的にはちょっと楽である。 舗装されている道が終わり、頂上に向かう土の見える道になる。 「よし、行くぞ」 僕は、気合いを入れて土の道に入っていく。 舗装された道では、自分の歩幅で歩けたが、3歩や2歩間隔とまばらに土の階段があるのでとても歩きずらい。 登ることと歩幅のため息が荒くなっていく。 周りの景色を見るゆとりがなく、ずっと地面ばかり見て歩いている。 陽を遮るものは無く、容赦なく僕に強い日差しが襲いかかり汗まみれである。 (ここまででいいだろう) 何回も思った。 (十分だよ) と思うたびに、 (あともう少しだけ行ってみよう) と心を奮い立たせた。 思えば、今までこんなに頑張ったことはあったであろうか。 嫌なことから逃げ、楽なことしかしていなかったと思う。 (登りきれば自信になる) そう自分に言い聞かせ、人生初の頑張りを続けていく。 「こんにちは」 と先程頂上にいた子供とその家族とすれ違い、挨拶されたので、 「こんにちは」 と無理に笑顔を作って挨拶する。 子供は、元気に道を下りていく。 (よし、あと少し) 見上げるともう頂上は、すぐそこに見える。 ラストスパートといってももう足がガクガクしていて早くは歩けない。 でも一歩一歩確実に歩き進めていく。 前を見るともう少しで階段状の道が無いことが分かった。 (頂上だ) 僕は、歩くスピードを早める。 最後の一歩を頂上の広場に踏み入れた時、 (着いた) と思うと同時に達成感に体全体が包まれた。 木々の陰の所にあるベンチに座るともう立てないのではと思ってしまう。 心地よい風が吹き抜けていく。 僕は、リュックから先程買ったコーヒーを取り出し、一口飲む。 生暖かくなってしまったが、いつもよく買うコーヒーが、とてもおいしく感じる。 見上げると雲一つない青空。 木々の葉を揺らす風の音しか聞こえない。 ベンチから立ち上がり、下を見ると先程までいた広場が小さく見える。 (あそこからよく来たな) と思いながら、少し先を見ると街並みが見える。 目線を上げると高い山々が見え、振り返ると海が見えた。 僕は、リュックから携帯を取り出し、写真を撮っていく。 (諦めないで来た甲斐があった) 途中で何回も挫けそうになったが、そこで諦めていたらこのような景色は見れない。 また、今まで感じたことの無い達成感も味わえない。
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