翡翠様のおわす山

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やがて、いつまでもこうしてはいられないと、意を決して歩き出した。 (きざはし)を上っていくと広縁があった。 本殿に入り、天井がとても高いことに驚いた。外観からある程度、想像はしていたが、中から見ればよりその空間の広さが感じられた。 天井には板が張られておらず、太い(はり)がめぐらせてあった。しかし、広いだけで他に何もない。 本当に、ここが神の御座所ーー? かやが一歩踏み出すと、何か柔らかいものを踏んづけた。ぎょっとして床を見れば、足元に落ちた羽がある。 しかし、ただの羽ではない。 かやの腕よりもずっと大きな蒼い羽。 それが、無数に散らばっている。 「何……これ」 気味悪さを覚えながら、さらに奥の間へ足を踏み入れる。すると、必要以上にたくさんの几帳(きちょう)が置かれているのに気付く。 几帳は貴人の姿を隠すものだが、これは何か、もっと閉塞感を伴う異様な感じがする。 何かを、恐れている? いえ、何かを封じ込めようとしているような。 几帳の奥で、そのが動く気配があった。 かやは咄嗟にぺたんと膝をつき、両手を揃えた。 「参りました」 そう言うのが精一杯だった。 自分から声をかけてよかったのか分からない。 神への礼儀作法など、かやは知らないのだ。 几帳越しで見えないはずなのに、ギョロリと睨まれた気がした。 かやは知らずうちに身をすくませた。 「里の女か」 「はい」 「名は何という」 「かやと申します」 「かや、こちらへ来るがいい」 恐る恐る几帳の奥へ進み出ると、大きな身体が目に飛び込んできた。
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