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「そこへお座り」
かやはもはや、自分の頭では何も考えられず、言われるがままに足を動かし、その場に手をついた。
まともに姿を見るのが恐ろしかった。
翡翠様は、見上げるほど大きなーー瑠璃色の鳥だった。
かやなど、丸呑みにされてしまいそうだ。
細く長い口ばしが、かやの目と鼻の先にある。
指先が、かたかたと震えた。
「かや。そなた、里の者から私の姿形について何か聞いたか」
「いいえ」
知っていたなら、道中、逃げ出していたかもしれない。
「先に知らせたら、怖がって逃げ出すと思われたのだろうねえ」
気の毒に、と呟く翡翠様の黒い目が、くるりと動いた。まるで心を読まれたようだと思った。
「わ、私は。翡翠様のお世話をするために参りました。姿形は関係ありません。何でもお申し付けください」
そう言って頭を低くすると、翡翠様はポカンと口を開けた。その様子が何故だか、ひどく人間臭かった。
「はぁ。うんまあ、そう。ふふ。そんなに気張るような仕事はないけどねえ。では早速、お願いするとしようか。そこいらに散らばっている羽を片付けてもらえるかい。前の子がいなくなって、しばらく経ったらこの有様だ。かやも、埃っぽいのは嫌だろう?」
意外にも、とても優しい声色だった。
生前、母が聴かせてくれた子守唄よりも、はるかに穏やかで、一滴の濁りもない声。
ああ、やはりこの方は、私たちとはまるで違う存在なのだ。
それを実感して、ずっと強張っていたかやの心が、ようやっと動き出した。
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