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生活に足りないものは、文吉が二十日に一度、山間の里から届けてくれた。
「あんたぁ、よく見りゃ別嬪だな。里におったときゃずっと下を向いとったもんで、気付かんかったわ」
文吉とは、初対面のときよりも打ち解けた。というより、勝手に馴れ馴れしくなった。
「いちもたいそうな美人だったが。まさか、あんなことになるとはねえ」
「先の下女のおいちさんのこと、何か知ってるんですか? その、山の中で……亡くなったと聞いていますけど」
気になって尋ねると、文吉はむっと押し黙る。そのままじっとこちらを見据えた。その様子が何やら意味ありげで、かやは急に恐ろしくなった。
「あんた、翡翠様のことをどう思うね」
「どうって……お優しい方だと思いますけど」
「はん、そうかい。そりゃあよかったね」
男は鼻白んだ顔つきになった。
「だがね、少しでも不審に思うところがあれば、わしに言うといい。手を貸してやろう」
「え……」
「さ。もう日が暮れる。また二十日後にな。翡翠様の様子を、ようく見ておくんじゃぞ」
文吉はそう言い残して、山を下っていった。
何だろう、かやは胸の奥がざわざわした。
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