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「あの……これは?」
薄い産毛が生えていて、表面には光沢がない。木の根元に落ちた葉は、薄墨を刷いたような色をしている。
「これを毎日、翡翠様の食事に混ぜりゃあええ。全部この実にすり替えたらバレるだろうが、ひとつふたつなら分からんじゃろう」
かやは思わず、目の前の男を睨んだ。
「まさか、おいちさんにも同じことをさせたんですか?」
「おうよ。あの娘も、あんたと同じように、翡翠様のおそばは耐えられんと泣きついてきてね。この実を食べさせるよう助言した。じゃが、まあ。何やらヘマをやらかしたんだろ。山中で殺されたのはそういうわけじゃ」
「殺された? いったい誰に」
「あの怪鳥以外に、誰がおる? あんたも、あれに悟られんよう慎重にやらなけりゃ、命はねぇぞ」
嘘だ。そんなの嘘。
かやはよっぽど言ってやろうかと思った。
あの方が、おいちさんに危害を加えたりするはずがない。
文吉の話はおかしい。
筋が通っているようにも感じるけれど、それは嘘の中に真実を混ぜて話したからだ。
かやは考えた。たくさん考えた。
どうすれば、嘘の薄皮を剥がして真実を取り出せるのか。
「か、翡翠様のお食事に毒の実を混ぜるなんて。私がそんな勝手をしたら、里のみんなが困ってしまうんじゃないですか?」
探るように文吉を見る。
「なあに問題はあるまい。これは里長をはじめ、里に住む者らの意向じゃ。山に翡翠様がいるせいで、わしらはその存在に敬意を払い、怯え続けなきゃいかん。ただの大きな鳥の化け物に、だ。これを計画した今の里長殿は賢明だよ。あんたも早く逃げ出したいのだろう? なら、早いとこ、アレをどうにかせにゃならんよ」
そう言うと、文吉はかやに赤い果実を握らせた。
産毛の柔らかな感触に、かやはぞっと背中を凍らせた。
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