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「お、お待たせしたね。謙吾、食べよう?」
ホテル特製のオムレツは最高に美味しかった。焼きたてのクロワッサンも外はパリッとしていて、中はもっちりふわふわの層がたまらない。
「あ、それと……」
謙吾が何か言いにくそうにしている。
「今日……この後……」
「なに?」
「その……。……が来るんだ」
「え? なんて?」
今、なんだかあり得ない言葉を聞いた気がするする。
「だから……親が来る」
「親? 親って謙吾の!?」
「うちだけじゃなくて、糸のとこも……」
「はい!?」
一体どういうことだ。
なんでそんなことに!?
「糸のご両親に挨拶に行こうと思ったんだ。うちの母親なら幼稚園からの知り合いだし、糸のお母さんの連絡先を知っているだろうと思って聞いたら……」
「……ハァ……なんとなく、聞かなくてもわかるわ」
大体の流れはわかった。元々ママ友として仲が良かった母親同士が盛り上がっちゃったのね。突然降ってわいた息子娘の結婚話に。
「悪い。うちの母親が張り切って、顔合わせの場を……予約したそうだ」
「顔合わせ……」
幼馴染みって怖い……。
展開が早すぎない?
「いいか?」
「……何を今さら。別に逃げるつもりもないし、いいわよ」
「糸……」
「ちょっと反省したの。ちゃんと話し合えば7年も無駄にしなかったんだろうなって。それにこの可愛げのない性格もね」
「……? 糸は可愛いぞ? 昔から顔だけじゃなくて性格も」
「なっ、なにを」
「勝ち気な性格も俺の好みだ。俺を倒して馬乗りになってくるところなんかも……」
「わぁーっ」
何言うのよ!?
「倒してない! 謙吾が私を持ち上げたんじゃない!」
「そうだったか? まぁいつだって糸は俺にとって一番可愛い存在だった。今もな」
「ん?」
「このワンピース、肩を出してるなんて反則だろう? 触りたくなるじゃないか」
いつの間にか食べ終わった謙吾が私の前に来ている。
「顔合わせの場所、このホテルのレストランなんだ。まだ十分時間があるよな」
そう言って、私をひょいっと抱き上げ、むき出しの肩にキスをする。
「ちょ、ちょっと何してるの!?」
「もう食べ終わってるだろう? 7年も待ったんだ。昨日のあんなのじゃ全然足りない」
「謙吾!」
スタスタと歩く先は、まだ乱れたままのキングサイズのベッドだ。
「せっかく着替えたのに!」
「また後で俺が着せてやるから、脱がせていいか?」
って、もうジッパー下げてるじゃない!
「俺の上でいっぱい暴れていいから」
「……もうっ! そういうこと言わなくていいー……んんッ……」
ああ、溺愛熊はまだまだ腹ぺこらしい……。
そうして、私たちは7年の歳月を埋めるかのように時間ギリギリまで愛し合った。
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