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謙吾との過去
目の前で婚活アプリに手を出しているのに、何も思わないのだろうか。
いや、それどころかアドバイスをしてくれる。
まったく、悪い男だ。人のハジメテを奪っておきながら、婚活アプリの使い方を教えてくれるなんて。
しかしなんで婚活アプリのことをこんなに知っているのよ。ひょっとして、謙吾も使ってる?
……まさかね。熊男だからってモテないわけじゃないだろうし。
それに、三男とはいえ六車ホールディングスの御曹司なんだから、それなりのご令嬢との縁談話もあるだろう。婚活アプリとは無縁のはずだ。やっぱり充くんに聞いたんだろうな。
「むかつく……」
「は? なんか言ったか?」
「……なんでもない。次は何を飲もうかなと思っただけ」
「俺、ハーフ&ハーフ頼むけど」
「じゃあ私も」
今はこうやって普通に話も出来ているが、私たちには離れている期間があった。
◇◇◇
謙吾とは、聖堂館学園の幼稚園からの同級生だった。何度か同じクラスになったことはあったが、仲良くなるきっかけになったのは小学6年生の頃のこと――。
自他共認めるしっかり者の私は、いつものように一学期の学級委員をしていた。
その頃の私は曲がったことが嫌いで、常に正しくあろうと人に厳しく、自分にも厳しかった。
そんな私は友達にとって『ウザいヤツ』と映ったのだろう。皆が私から離れていき、誰も言うことを聞いてくれなくなったのだ。
クラスで大掃除をしたときも、私の指示を受けるのがイヤなのか、先生の目を盗んで掃除をしない子が多発した。
もちろん私は厳しく注意をする。しかしクラスメイトはただ反感を持つだけだった。
6年生にしては小柄な私に注意されることもプライドが許さなかったのかもしれない。
私は強気に振る舞っていたが、正直心が折れそうになっていた。注意すればするほど皆の心が離れていくことに。
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