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そんな時だった。謙吾が一言言ってくれたのは。
「糸は口先だけで自分は何もしない学級委員じゃない。糸が誰よりも働いているのは見ていればわかるだろう? お前らただサボりたいだけじゃないか。恥ずかしいと思わないのか」
当時、謙吾は小6にしてすでに170㎝を超える身長で、ランドセルを背負っていなければ小学生には見えない体格だった。
寡黙だが成績は良くスポーツ万能。ただ目つきが鋭く見た目が怖かったので、モテてはいなかったが、周りからは一目置かれていた。
そんな謙吾の一言は、クラスメイトの心に深く刺さったようだった。
それから皆の態度は一変し、クラスの雰囲気もとても良くなったのだ。
私は謙吾に救われた。謙吾がいなかったら、カドがありまくりの私ではクラスを上手くまとめられず、反感を買う一方だっただろう。
その後、私はただ正しいことを皆に押しつけるのではなく、言い方を変え、受け入れられるよう努力するようになった。
そして謙吾に対しては、私を救ってくれた感謝の気持ちと、それ以上の……淡い恋心を抱くようになったのだ。
中学に上がっても、謙吾は不器用で見た目が厳つかったため、女子には人気がなかった。寡黙な分、発する一言に重みがあるので、男友達には人気があったのだけれど。
そんな環境だったから、謙吾にとって、私は唯一話せる女子だったのだと思う。
聖堂館学園を卒業し、私は系列の女子大へ。謙吾は国立大へ進学。大学生になってからもたまにメッセージでやり取りはしていた。
ことが起こったのは大学3年の時。久しぶりの同窓会で聖堂館のメンバーと集まり楽しく過ごした後、謙吾と二人、私のマンションで飲むことにしたのだ。
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