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ほどよく入ったアルコールと、一人暮らしの部屋に謙吾を迎え入れたという親密感で、私たちは一線を越えてしまった。
もちろん私はもうずっと謙吾のことが好きだったからとても嬉しかった。
でも、謙吾は違ったのだ。
朝目覚めた私に、こう言った。
「悪い! こんなつもりじゃなかったんだ!」
「謙吾?」
「痛かっただろう? 申し訳ない! もう二度とこんなことはしないから」
もう二度としないって……お酒に酔った勢いの一夜の過ちだったってこと?
「……後悔してるの?」
「ああ、悪い――」
「帰って! もう謙吾とは会いたくない」
「へ?」
最低だ。私はすごく幸せな気分だったのに、謙吾は違った。ただ雰囲気に流されただけだったんだわ。
私は床に散らばっている謙吾の服をかき集め、謙吾をアパートの廊下へ放り出した。
「さっさと着て。帰って!」
靴もカバンも投げつけてやった。
ばたんとドアを閉めたのに、ドアを叩きながら叫ぶ謙吾。
「糸! 病院へ行ってくれ。頼む」
病院? 今さら何を。妊娠してないか心配してるってこと?
最低!
「うるさい! 帰れ!」
生理ならあと二日ほどで来るのはわかってる。
それに一応は気遣ってくれたのも気づいていた。
痛くないように、初めての私を気遣ってくれたことも……。嬉しかったのに。
そんなことがあって、傷ついた私はもう二度と謙吾には会いたくないと思ったのだ。
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