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肩にリボンをつけてもらうため、かがんだ俺に「謙吾、がんばったね!」と言って、糸が俺の頭を撫でた。
初めての感覚だった。親にさえ頭を撫でられた覚えがなかったのだ。こんな大男の頭を撫でる友達ももちろんいない。
小さい体で背伸びして、満面の笑みで俺の頭を撫でる糸は可愛かった。リボンをつけてもらう間、ずっとドキドキしていたのを覚えている。
それから糸は俺にとって特別な存在になった。
つまり、これが俺の初恋だったのだ。
糸は小柄だが整った顔をしていて、小さい時から可愛かった。ただ、まじめな性格で曲がったことが許せず、正義を貫こうとする態度が、同級生にはウザく映っていたようだ。
俺にとっては子犬がキャンキャン吠えているようで可愛いとしか思えなかったのだが。
しかし中学、高校と学年が上がるにつれて、俺のような目で糸を見る男も増えてきた。小さいのにしっかり者でキャンキャンと『お小言』を言う糸は誰の目にも可愛かったのだろう。
あれは、大学3年の時のこと。聖堂館の同窓会があった。糸が出席することを直前に知り、俺も急遽かけつけたのだ。
相変わらず糸はみんなの中心にいた。ハキハキした物言いも以前よりマイルドになり、機知の効いた会話は誰もを楽しませていた。
この時はなぜか女子たちが俺にも話しかけてきて、皆大人になって社交性がついたのだと感じた。
有難いことだが、せっかく参加したのに糸と話すことが出来ない。焦れったく思っていた矢先、糸がみんなの輪から抜け出してきた。
「この後時間ある? 全然喋れなかったし飲みに行かない?」
俺はもちろん二つ返事でOKした。
しかし時間が遅かったため飲みに行くことはできず、糸のアパートで飲むことになった。
俺は糸と二人きりになるという展開に浮かれていた。糸を独り占めしたかったのだ。
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