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エレベーターを上がると異国情緒溢れるプールエリアが現れ、テラス部分がビアガーデンになっていた。
まもなく日の入りを迎えるプールザイドに、ランタンとトーチの明かりが映えてエキゾチックな雰囲気を醸している。水面に映るプールハウスの明かりがきらきらと光っていて、なんとも言えない非日常感を感じる。
「素敵……」
こんなに素敵なところに来るなら、もっとふさわしい格好で来たかった。今の私は仕事帰りのパンツスーツ姿だ。しかもかなり地味目の。
「どうした?」
「……なんでもない。素敵なところね」
「兄貴が今日会社に来て、福利厚生に使えって言って、ここのチケットを持ってきたんだ」
「お兄さん?」
「ああ、兄貴のホテルなんだ。ここ、最近手に入れたらしい」
「そ、そうなんだ……」
少し前まで外資系のホテルだったように思うんだけど、今は六車グループのものなんだ。すごいな。
「もちろんもらったチケットはうちの社員にまわすから、俺は別で取ったけど。たまにはこういうところもいいかと思って。最近旅行らしい旅行はしてないし」
「それは私も。学校行事で修学旅行先の下見に行ったり、実際に生徒たちを連れて行ったり。旅はしているんだけど、全部仕事」
「まあ、そんなもんだ」
「うん、でもここならプチリゾート気分が味わえるね」
私たちはプールサイドの特等席に座った。
そこからプールハウスのバーに並んだたくさんのタップが見える。
「うわっ! あれ見て。すごい数のタップだよ!」
「9種類の樽生があるらしい」
「9種類!? うわー楽しみ! 全部試せるかしら」
「さすがに全種類は無理じゃないのか?」
「あ! 小さいグラスで飲み比べセットがある!」
メニュー表には、9種類のグラスが整然と並べられた飲み比べセットの写真があった。
「まずはこれを頼んで、あとは気に入ったものをジョッキで、だね」
ワクワクが止まらない。
「謙吾、誘ってくれてありがとうね! ここ最高!」
「あ、ああ」
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