糸、フラれる

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 とりあえず、あいつに聞いてみるか。  送信して待つこと5秒。   『行く。今どこだ?』    よし! 一緒に観てくれる人ゲット!  映画館の場所を伝え、待つこと15分。   「謙吾! ここ!」    現れたのは、私の幼馴染で同級生の六車謙吾(むぐるまけんご)だ。  謙吾が現れると、決まって周りがざわつく。髭面の強面で目付きが悪い上に、190cmという高身長。どうみても悪役にしか見えない、その見た目の怖さからだ。  まあ私は小さい頃から見慣れているから、なんとも思わないんだけど。   「おつかれー。突然で悪かったね」 「本当に突然だな」 「謙吾が空いていて良かったわ。時間がないから行こう!」    さすがに金曜日の夜だけあって映画館は混んでいた。そこかしこに仕事終わりのカップルや大学生ぽいグループがいる。  席に着席した途端、予告が始まる。   「なあ……」 「ん?」 「今さらだが、何を観るんだ?」    あ、そういえば何を観るか言い忘れてたわ。   「コナンよ」 「は? 俺一度も観たことないんだが……」 「私だってそうよ」 「じゃあなんで……」 「向こうが決めたのよ。話はあとでね」 「……」  こいつ……。  映画が始まってまだ10分も経っていない。しかし隣の席の謙吾はすでに夢の中。  一応デートだと思ったからペアシートを予約したのよね。シアターの隅の席だから気を遣わなくていいけれど、それにしても重い。左側から上背もある謙吾の頭が私の頭に乗っかかっている。  スース―と寝息が頭にかかる。リラックスしすぎなんじゃないの?  隣との距離がゼロ。密着したこの状態では謙吾の体温や体臭がはっきりと伝わる。  思い出されるのはあの時のこと。過去に一度だけ距離感マイナスで謙吾と密着したあの時の――。  ……別に嫌ではないんだけど。  
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