糸、フラれる

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「まあ、子供たちがコナンコナンって言ってたから、観られてよかったけど」    子供たちとの会話の足しになるからね。   「どうしたの? 飲まないの?」 「……飲む」    そういって謙吾は生中を一気飲みした。   「ちょ……大丈夫? ペース早いんじゃ」 「すみません! もう一杯」    どうした? なんだか機嫌が悪い。  ただでさえ強面で目つきが悪いのに、さらに凶暴で機嫌の悪い熊みたいになっている。  新規事業でトラブルって言ってたからストレスでもあるのだろう。    謙吾の実家は六車ホールディングスという、関西では知らない人がいないくらい有名なグループ会社をしている。  長男はゼネコンを、次男はホテル業を、そして三男の謙吾は人材サービス関係の会社を任されていた。    この風貌で人材サービス会社のトップって大丈夫なの? と思うが、人材サービスといっても今はネットやアプリによる仲介がほとんど。利用者と顔を合わせることはあまりなく、あったとしても各主要都市の担当者が対応している。代表である謙吾が利用者と直接顔を合わせることはないのだろう。    疲れているんだろうな。謙吾が現地まで行かなきゃいけないようなトラブルがあったんだもの。   「謙吾」    私は、労うつもりで「おつかれ」と届いたばかりの生中に自分のジョッキをこつんと合わせた。   「お、おう……」    あれ、機嫌が直ったのかしら? 髭面ってわかりにくいけど目つきがさっきよりマシだ。  
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