糸、フラれる

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 次から次へとやってくる料理を平らげていく謙吾を見るのは面白い。熊のもぐもぐタイムかと思いきや、さすが六車グループの御曹司だけあって、食べ方は洗練されていてとてもきれいなのだ。   「違和感~」 「なんだ?」 「いや、何でもない。それよりさ、次はアプリでやってみようと思うの」 「は? 何の話だ」 「婚活よ。婚活アプリってあるじゃない? マッチングアプリっていうのかな」 「……」 「お母さんの知り合いとかだったら後が面倒だもん。婚活アプリならお仲人さんに気を使わなくていいじゃない? ちょっとこれ見て。今一番評判がいいのはこれらしいの」  私は同僚の先生から教えてもらったアプリを謙吾に見せた。   「【婚活ステーション】っていうの」 「ブフッ!」    アプリを見るなり吹き出す謙吾。   「ちょっと――汚いなぁ」    おしぼりで髭面を拭いてやる。   「そ、それ……」 「このアプリ、評価も星4.7だし、口コミもいいのよ。AIが徹底的に自分にあった人を探し出してくれてマッチングだって。二つ上の秋吉先生のおススメで、先生もこの前ついに実際に会ったんですって! すっかり意気投合したみたいなの。すごくない?」 「……」 「なによー。婚活アプリなんて、って思ってる? 就活アプリを生業にしている人が反対するの?」 「い、いや、そうじゃなくて……。突然じゃないか? 糸、今まで仕事の話ばかりで……」 「さすがに30歳が見えてくるとちょっとは考えるようになるよ。あの職場じゃ出会いもないし。お母さんもうるさいしさぁ」 「……」 「よし、ダウンロードしちゃおう。えいっ!」 「あっ」
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