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もう1回
「……もう1回だけ……これが、これが本当に最後なのか?」
小さなモニターと2つのボタンしかない、あとは白い壁と床と天井に囲まれた3畳くらいの部屋で、西郷アタルは呟いた。
目の前の赤と青のボタン。
生か死か。DEAD or ALIVE。
どちらかを押せば西郷アタルは生き残り、選択を間違うと西郷アタルは死ぬ……らしい。
実際に選択ミスで本当に死ぬのか分からない。
「……まさか、俺が全人類の中で最後になるとは……」
小さなモニターには、この状態になっている説明文と、残りプーレイヤーの人数が表示されていた。
どんどん生き残っていく人類たち。
現在、こんな部屋の中に居るのは西郷アタル1人だけらしい。
人類は本当に生き残っているのか、本当は赤と青、どちらのボタンを押しても死ぬのかもしれない。
しかし、それを西郷アタルは知るすべがないのだ。
西郷アタルは東京大学の医学部に現役合格したばかりの18歳。
すごく美人で性格も良い恋人もいる。
家庭環境にも恵まれていた。
そんな自分が、生と死を選択する二択ボタンで人類最後になるまで選択ミスをするなんて……
小さなモニターの説明では、他の全人類は二択に正解して、俺以外の全員がこの部屋から出て、いつもの生活に戻っているらしい。
赤ちゃんや目の見えない人とか、文字も読めない人、そんな人たちがどうやって赤と青のボタンを選択して押したのか理解不能だが。
と、そんなことを西郷アタルはずっとグルグルと考えては考えているのだ。
これまでに赤と青の選択ボタンを何百回、何千回、何万回押しただろう。
その全てで、小さなモニターには「不正解」の文字が現れた。
喉も渇いたしお腹も空いた。自慢の思考能力も不安定になってきた。
「あと1回……」
小さなモニターには「あと1回です」の文字。
これが本当にラストチャンスなのか?
この白い壁と床と天井に囲まれた、ドアも窓もない、どんなに蹴っても殴っても壊れない壁と床の部屋。
こんな部屋で俺は死ぬかもしれないのか?
人生はまだまだこれから……なのにだ。
俺が医師になれば、何万人の人を救えると思う? 神よ。
……神がこの状況を作っているかは知らない。
西郷アタルは固い床に寝転んだ。
「……低い天井だな」
西郷アタルはゆっくりと立ち上がり、天井を思いっきり殴った。
ボン!
「……」
天井に穴が空いて太陽の光が差し込んだ。
小さなモニターに「最後に正解。最後の1人は赤と青のボタン二択ではなく、天井を殴る事が正解でした。おめでとう」の文字。
「……どうやって出るんだ? これ……もう1回だけ、か」
西郷アタルは白い壁を殴った。
白い壁は簡単に穴が空いた。まるで段ボールみたいに。
「……もう1回だけな」
西郷アタルは白い壁を蹴って大きな穴を開け、外へ出た。
そこは山の中のようだ。
「……せめて俺の部屋と繋がっててくれよ……何が正解なんだか」
山の空気を思いっきり吸い込む西郷アタル。
「まあ、良いか」
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