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日向さんの『レンタルおじさん』のバイト契約はまだ残っているけど、俺たちは、以前よりも頻繁に逢瀬を重ねるようになった。
俺は、目の前で珈琲を飲む日向さんをちらりと観察する。
春用のセーターをストライプ柄のシャツに重ね着したカジュアルな服装。
ピンクベージュの春らしくも落ち着いたカラーのストライプ柄を襟元だけで見せる着こなしは大人の余裕を感じる。
伊達メガネも、いつも通り、似合っていた。
こういうカジュアルスタイルもカッコいいなんて、ずるいよなぁ……。
先程からこちらにチラチラと視線を送る女性二人組から「おじさまかっこいい!」と言う声が耳に入り、大変、面白くない。
ぢゆっと音を立ててオレンジジュースを啜る。
むうう……! 日向さんは、俺のなんだぞ。
俺は内心でこっそりため息を吐き出した。
「浮気調査の依頼なんて、レンタルおじさんってそんなこともするんですね」
「ああ」と頷いた日向さんは、「旦那の浮気調査をしてほしいという依頼なんだ。今度の日曜日、誰かと会う約束をしているらしいから、尾行して相手を見てきてほしいとな」と言って珈琲を一口啜ってから、面倒そうにため息を吐き出した。
「お、俺、お手伝いしたいです」
ぐいとテーブル越しに身を乗り出した俺に、「いや、しかし」と渋る日向さんを、俺は必死で説得する。
だって、俺は……!
「俺は、日向さんの役に立ちたいんです!」
目を丸くして俺の顔を見つめていた日向さんが、「ふはっ」と吹き出した。
「君は、意外と頑固者なんだな、直生」
ああ、俺にだけ向けられる、この柔らかい笑顔が、俺は、堪らなく好きだ。
「では、お願いしよう。尾行は一人より二人の方がカモフラージュになるからな」
「は、はいっ」
——こうして、俺たち二人の、共同調査が始まった。
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