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一人残した四季の事など一切気にせず、累は欠伸を零し人が行きかう住宅街を歩いていた。
ただ歩いているように見える累だが、黒い瞳は至る所に向けられ、なぜか胸糞悪いというように舌打ちを零した。
何かから逃げるように足を速め、住宅街を抜ける。
人の声が聞こえなくなると足を止め、一応周りに人がいないか確認し、右目を手で押さえた。
一度瞼を閉じると、地面に伸びていた累の影が突如、不自然に動き出す。
うようよと変な動きを見せたかと思うと、地面から浮き出てきた。
瞬間、累は瞼を開ける。その瞳は、今までの漆黒ではなく、真っ赤に染まっていた。
紅蓮のように燃える赤い瞳は、いつの間にか隣に現れていた日本人形を捉えた。
「一度戻るぞ、クグツ」
『ワカリマシタ、ゴシュジンシャマ』
黒い長い髪、赤い着物を身につけている日本人形は、カタカタと口を動かし、ロボットのような声で返事をした。
動いていた影は、累とクグツを覆い隠すように広がり、二人の姿を覆う。
そのまま地面へと戻り、そこには何も残らず、何事もなかったかのような静寂が広がった。
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