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2-2 裏の世界
「――――よっと」
突如、建物の隙間にある影から、累が飛び出すように姿を現した。
その目は、もう漆黒に戻っている。
同時に、クグツと呼ばれた日本人形も影から飛び出す。
「ふぅ。やっぱり、こっちの方が落ち着くなぁ~」
首をコキコキと鳴らし、周りを見る。
今、彼がいるのは、薄暗い建物の隙間。だが、その建物には誰も住んでいない。
外壁はボロボロで、触れるだけで壁画が崩れる。
窓は割られ、蜘蛛の巣が張られていた。
なぜ、こんなに建物がぼろぼろなのか。
それは、今累が来た世界は、先程までいた世界とは違う、裏側の世界だから。
累が建物の隙間から出ると、まだらに人がいる程度。
地面に座り項垂れていたり、頭から血を流し倒れている人、酒に酔って寝ている人など。
表の世界では、歓迎されない人達が集まっている。
裏の世界は、人間の『裏』が現されていると言われ、表の世界では隠さなければならない人間の本性を出せる自由な世界だと、累は思っていた。
「――――おっと?」
累の後ろから突如、鉄パイプが降ってくる。
累はマイペースに振り返り、手で受け止めた。
「帰ってきたな、累くんよぉ~。前は俺のダチが世話になったらしい」
「ダチだぁ?? 知らんなぁ、誰だよ。最近だと五、六人は殺っているから聞いたところで分からんがな」
ニヤァと、口角を上げ余裕そうに笑う累を見て、鉄パイプを振りかざしてきた男性は、顔を真っ赤にして怒り出す。
一度、累が掴んでいる鉄パイプを無理やり離させ、後ろに一歩下がった。
「噂で聞いていたが、この世界でも珍しい程の外道なのは、本当らしい」
「この世界では、それは究極の褒め言葉だな。あんがと、テンション上がるわぁ~」
手をヒラヒラと振り、相手をおちょくる。
それに関しても怒り心頭。男性は、鉄パイプを握る手に力を込めた。
「てめぇ、今度はお前が殺される番だ。ここでは、殺しは罪にはならねぇ」
「表の世界を知っているらしいなぁ。まぁ、どっちでもいいけど」
裏の世界では、殺人や暴力が許されており、取り締まる人がいない。
そのため、強い者が生き残り、弱い者は簡単に死ぬ。
そんな世界で累は、年少期から過ごしていた。
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