2-2 裏の世界

3/6
前へ
/36ページ
次へ
「ふぅー。戻って来い、クグツ」  離れていたクグツは、返り血を拭っている累へと近付く。  影刀が握られている右手を横に振ると、薄くなり消える。同時に、赤かった右目も元の黒い瞳に戻った。 『オツカレサマ、ルイ』 「おうよ。楽しかったからいいけどな」  赤くなってしまった右手を見て、一舐めすると、顔を歪ませてしまった。 「まっず…………」 『キタナイ』 「そうだな」  また右目が赤くなったかと思えば、影が累の右手を包み込む。  すぐに無くなったかと思えば、赤かった手は綺麗になっていた。  伸びをして、累は歩き出す。  冷たい風が吹き、累の銀髪とクグツの黒い髪を後へと流した。  欠伸を零しながら歩いていると、何処からか子供の泣き声が聞こえ足を止める。  横を見ると、倒れ込んでいる母親らしき人の隣で泣いている少年がいた事に気づいた。  ボロボロの身丈が合っていない服、やせ細っている体。  あの少年は、もう死ぬな。そう思った累は、無視して歩き出そうと前を向く。  だが、耳に少年の泣き声が入り、気が散る。歩くに歩けない累を、クグツが呼びかけた。 「…………はぁ」  クグツの呼びかけを無視し、累はクルッと方向転換し、少年へと近づいた。  返り血で赤く染まっている累を目の前にした少年は、体を震わせ目を見開いた。  驚きのあまり、涙は止まったらしい。  目の前にいる累を見上げる少年の丸い大きな瞳には、無表情の彼が映り込む。  何も口にせずにいると思いきや、その場にしゃがみ込み、ポケットから一つのお菓子の箱を取りだした。  それは、表の世界で楽しんでいたパチンコの景品。  少年は差し出されたお菓子の箱を見るが、受け取ろうとしない。  じれったいと思い、累は箱菓子を地面に置いて立ち上がる。  そのまま、何も言わずに歩き出した。  何が起きたのかわからない少年だったが、地面に置かれたお菓子が食べ物だと認識し、拾い上げる。  累の背中を見て、大きな声を上げた。 「お兄ちゃん!! ありがとう!!!」  少年のお礼に、累の顔は歪む。  舌打ちを零し、何も反応せず歩き続けた。  クグツは、彼の顔を覗き込もうとした。だが、右手でそれを阻止される。 『ドウシテ』 「気分だ」  それ以上何も言わず歩いていると、累の前から一人の男性が近寄ってきた。  累の位置からでは、輪郭はわかるが、誰だかはまだわからない。  それでも、嫌な予感が走り、目を細め誰なのか確認した。 「――――ゲッ」  誰だかわかった瞬間、累はげんなりするような声を上げた。  同時に、顔を醜く歪ませ、死んだ魚のような目を浮かべた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加